呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 答えは否だろう。

 シュミット伯爵家は間違いなく裕福で、ハンナは実家にいた頃よりずっと上質なものに囲まれて暮らしていた。

 同情もあるのだろうが、使用人たちは異国人であるハンナにも親切で『奥さま』として丁重に扱ってくれる。

 自分たちの結婚は、オスワルトの第一王子フューリーが斡旋したもの。だからリリアナがあれこれ画策したところで、ジョアンは自分を追い出すまでのことはしないはず。

(まぁ、可もなく不可もなく六十点。とても私らしい結婚生活かもしれませんね)

 ハンナは足るを知る人間だ。衣食住が保証されているだけで、十分に幸せなのだと理解している。

(結婚生活は順風満帆、そう返事をしましょう)

【そうそう。ハンナが教育係を務めたエリオット殿下だが、見違えるように精悍になって、メキメキと頭角を現しているよ。ひょっとすると彼が王位を継ぐ可能性も……なんて噂がささやかれるほどにね】

 手紙の最後の一文に、ハンナは目を留め「まぁ」と口元を緩めた。

 とてもとても、懐かしい名前が記されていたからだ。

 返事を書き終え、ペンを置く。それからどさりと身体をベッドに沈ませた。

(エリオット殿下も……がんばっていらっしゃるのね)

 ハンナは頭のなかに彼の姿を描く。
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