呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 別れた日から二年が過ぎているから、現在の彼は十七歳になっているはず。

 ハンナの知る十五歳の彼を、二年ぶん成長させてみようと頭のなかで空想してみたものの、うまくいかない。

 あの年頃の数年間はとても大きく、きっとハンナの想像など軽々とこえているだろう。

『ハンナ。キスがしたい』
『君がいい。君とじゃなきゃ嫌なんだ』

 まだ無邪気さを残しつつも、ハンナが思っている以上にしっかりと〝男〟だった彼の熱い瞳を思い出す。

 あの日、ささやかれた台詞が耳に蘇ってきてハンナの胸をかすかに熱くさせた。

 ハンナは自身の白い指先でそっと唇に触れる。

 今までも、これからも、誰のぬくもりも受け取ることのない、かわいそうな唇だ。

(いっそ、あのとき一度くらい……)

 馬鹿なことを考えた自分に、思わず苦笑を漏らす。

 当時の彼は十五歳。一途な思いは、雛鳥の刷り込みと同じで正しい愛とは……言い切れない。

 そもそも身分が違う。どこをどう考えても、あのときの自分の判断は正しかった。

 そう確信しているのに、彼を思い出すと、どこか未練に似た思いが湧きあがり胸がいたずらに疼いた。

 彼とキスする、その瞬間を妄想しかけて……ハンナは慌てて頭を振る。

(仮にも夫のいる身で、ほかの男性とのキスを想像するなんて……天罰がくだってしまうわね)

 そう、ハンナも多少の天罰は覚悟していた。

 だが、まさか現在進行形で、夫の愛人が自分を呪い殺す計画を立てているとは露ほども想像していなかった。
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