呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 二年間のむなしい結婚生活。そして、最期のとき。

 魔術師が唱えた不思議な言葉も、リリアナの満足げな笑みも、ハンナにとってはつい昨日の記憶と感じられる。だからこそ、この状況がどうしても理解できないのだ。

「私は……夫の愛人に呪い殺されました。なのに、どうして? これはすべて夢なのでしょうか?」
「夢じゃない。君はきちんと生きているよ。実はね――」

 彼の形のいい唇が紡ぐ事の経緯は、古ぼけたお伽話のようでハンナの理解の範疇をこえていた。

「魔術師が呪詛を間違った?」
「あぁ、君にかけられたのは眠りの呪詛」

 そこで彼は言葉を止め、小さく息を吐いた。

(私が……眠っていた?)

「そう、君は眠っていただけだ。――十五年間ね」

 ハンナは二十二歳の身体のまま、眠り続けた。

 五つ年下だったはずのエリオットは現在、三十二歳。ハンナより十も年上になってしまったらしい。彼はそう説明した。

「君が嫁いでしまって二年、眠りについてから十五年、合わせて十七年。私はずっと……この日を待ちわびていた」

 歓喜と興奮に、エリオットは声を震わせた。

 ハンナの記憶にあるものとはすっかり変わった、低く、艶っぽい、大人の男の声音だ。

 ハンナはあらためて、逞しい腕で自分を抱く彼を正面から見つめた。なんと、堂々たる姿だろうか。 
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