呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットは驚いたように目を見開き、それからハンナの背筋をゾクゾクさせる煽情的な笑みを浮かべた。

「それは、とんだ悪女だね。罰を与えようか?」

 艶めいた声がハンナをとらえて、離さない。

「罰はね、私の妻として一生を過ごすことだ。もうどこにも逃げられないから、覚悟しておいて」

 大きな手がハンナの後頭部に回り、彼の吐息が鼻をくすぐった。

「まったく。そういうことをしたいなら、いちいち呼ぶな」

 空からハーディーラのぼやく声が落ちてくる。

「決して叶わないと思っていた夢が……やっと叶う」

 歓喜に震える声で言って、エリオットはゆっくりと唇を重ねた。

 ふにっと柔らかく、温かい。ハンナにとって、初めてのキス。

 愛する人と唇を合わせる行為がこんなにも心地よいなんて知らなかった。

 頭がふわふわして、なにも考えられなくなってしまいそう。

「はぁ、このままここで死んでしまっても本望かもしれない」

 エリオットのつぶやきに、ハンナも少しだけ共感する。

 もうなんの悔いもない。そう思わされてしまうほどに、甘く幸福な時間だった。

 こうして、ハンナ・サラヴァン子爵令嬢はオスワルト国王、エリオット・カーミレスの正妃となった。

 シュミット伯爵夫人だった過去はないものとされているので、これが初婚だ。
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