呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 豪華な結婚式を終えた夜。

 ハンナは安堵のため息とともに、今夜からは夫婦の寝室となる部屋に戻ってきた。

 そばに控えている侍女、ナーヤがハンナに声をかける。

 彼女の年齢は正確には聞いていないが、おそらく三十代半ば。ハンナが眠っていなければ、ちょうど同じ年頃だったのじゃないだろうか。

 福々しい丸い顔と身体の持ち主で、底抜けに明るい性格。仕事に関しては有能で頼りになる。

 ハンナはたちまち彼女を好きになった。

「おつかれさまでございました。夜着はそちらにご用意しておりますので」

 ベッド脇に籐のかごが置かれていて、そこに柔らかそうな夜着が入っている。

 ふんわりと透ける白い布に金糸の刺繍。胸元を飾るリボンは赤。

(私の赤い瞳に合わせてくれたのかしら?)

「ナーヤが選んでくれたの? センスがいいわ」

 ナーヤはクスクスと笑って答える。

「陛下からの贈りものですよ。王妃さまに似合うだろうからと」

『王妃さま』が自分を指しているのだと気づくのに、少し時間を要してしまった。

 自分がそんな名で呼ばれることになるとは……人生とは摩訶不思議なものだ。

「エリオットさまが……式の準備だけで相当にお忙しかったはずなのに」
「陛下は……王妃さまのことになると、私たち使用人よりずっと働き者になりますから」

 褒めているというより、呆れている。そんな顔でナーヤは肩をすくめる。
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