甘さなんかいらない【SS更新中】
隣に座る可憐な彼女は瑛くんのことを“田邊”と呼ぶ。瑛くんが苗字で呼ばれていることってあまり聞いたことがない。
ひとりひとりに意味を授ける名前ではなく、生まれた時から決まっていて意味が与えられることのない苗字であえて呼んでいることが、このふたりの“特別”な気がした。
「田邊が、私の知らない顔をしていたから」
「……知らない顔?」
「大事そうに宝物を見つめるように柚果さんに視線を落としていたから、思わず近寄っちゃったの」
少しだけ口角をゆるりと上げて目を細めた遥乃さん。
……遥乃さんの言葉に、そんなはずない、と思った。遥乃さんにこそ、だ。
貴女に気がついた瑛くんは、見たことないくらい優しさを抱え込むような眼差しを向けていた。