甘さなんかいらない




知らないバニラと、視界に映った黒髪、耳触りの良いストンと耳に落ちてくる声。

思わずそちらへ顔を向けてしまったが最後。



目が合った瞬間、猫みたいに丸っこいその目がさらにまんまるに見開かれて、あたしを捉えて離してくれなくなった。


整いすぎた顔のバニラの持ち主は、驚きで表情が支配されている。息をするのも忘れて、心臓が止まるかと思った。声の、言葉の出し方を一瞬忘れた。



何年と会っていなくても、しっかり顔は覚えていて、成長した姿を認識できるんだ。お互いに。名前を知らなくてもお互いに、その人だときちんと認識できてしまうことにも驚いた。



……まさかこんなところで再会するなんて思わなかった。




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