甘さなんかいらない【SS更新中】
全くない。1ミリも。徐々に思い出せるかもしれないけど、現時点、昨日から今この瞬間までの記憶はすっぽり抜け落ちている。
「……ねえ、瑛くん。あたし、やらかした?」
「えー?」
顔を合わせないまま聞いてみれば、手が伸びてきて、強引にそいつのほうへ向かされた。
そらしているから聞けたことだったのに。最悪。目が合った彼は目を細め薄く笑い、楽しむように口を開いた。
「どうだろ。どこまでしたか、教えてほしい?」
「ちなみに」と付け足されてから、手があたしの横につかれて、顔が近づいてきて、拒否する隙も与えてくれないままあっという間に重なって、離れた。
今日のあたし、ちなむとロクなことがない。
「キスはしました。その後は……教えてあげない」
あー……ほんと、最悪だ。またあたし、こいつに唇を奪われた。