黒王子くんはマスクの下を暴きたい!
一話:私の秘密がバレちゃう⁉︎
高校一年生の夏。
学校生活にも慣れてきた頃。
私、森下果穂は未だに隠していることがある。それは私がこの高校生活でずっと隠し通したいことだった。
それは――
「果穂、マスク暑くない?」
いつも一緒にいる高野愛美ちゃんは、下敷きで顔を扇ぎながらそう言った。
「全然暑くないよ。私は平気だから」
「そっかー。やっぱりまだマスク外せないのー?」
「うん。まだちょっとできないや」
私は苦笑いをしてそう答えた。
「蒸れたりしない?」
「うん。平気平気」
私はマスクを外せない。
あることを隠したくて、マスクを外すことができない。
だから私は、お昼休みでも食事はほとんどしない。食べるとしてもマスクの下から食べられるもの。
飲みものとか、ゼリー飲料とか、そういうものしか学校では食べたりしない。
「あっ、晶くんおは〜!」
愛美ちゃんがそう言って手を上げた先にいたのは、神崎晶くん。
「おは」
いつもクールで笑ったところは見たことがない。
真っ黒な髪に端正な顔立ち、頭も良くて運動もできる。
このクラスだけじゃなくて、他のクラスや先輩たちからも大人気。
私には、程遠い人。
愛美ちゃんは色んな人に挨拶ができて、すごいなぁって思う。私にはできないや。
目の前を通り過ぎていく晶くん。
私とは挨拶せず、目が合うこともなく、過ぎていく。
「晶くん、どう思う?」
小さな声で愛美ちゃんがそう言った。
「ど、どうって、別になんとも……。ただのクラスメイトじゃん」
「本当〜? 私はかっこいいと思うけどな」
「愛美ちゃんには周人くんがいるじゃん」
「まぁまぁ、そうだけどさ。ってかまだ片想いですけどー」
そう言って愛美ちゃんはぷぅーっと頬を膨らませた。
「あれだけ大人気な晶くんだから、きっとみんなお近づきになりたいって思ってるよ」
「そりゃそう! 他のクラスの子も先輩も狙ってるからね! でもさぁ」
「なーに?」
「高校入ってから恋人いないらしいよ」
「そうなんだ」
「あれ、興味ない? 大チャンスなのに!」
「チャンスって言っても、私なんかじゃ絶対無理だから。ほら、チャイム鳴るよ」
「はーい。じゃ、また来るね!」
そう言って愛美ちゃんは自分の席へ戻って行った。
愛美ちゃんが座ったタイミングで、チャイムが鳴り響いた。
◇◇◇
放課後。
「それじゃ、部活行ってくるね! また明日!」
「うん。またね」
部活がある愛美ちゃんを教室で見送ったあと、私はみんながいなくなるのを待った。
特に用事があるわけでも、勉強のために居残りしているわけでもない。
ただ、放課後の静かな教室に一人でいることがなんとなく好きだった。
私はみんながいなくなるまで本を読んだ。
足音が遠くなり、騒がしかった声が聞こえなくなると、本を閉じて伸びをする。
「ん〜……。はぁ」
今朝はあんなこと言ったけど、本当はマスクなんかしたくない。
こんな真夏にマスクなんて自滅行為。
私はキョロキョロを周りを確認してから、マスクを外した。
「はぁ〜〜〜〜。新鮮な空気だぁ」
深呼吸をして、酸素を取り込む。
私がマスクをしているのは、口元にあるホクロを隠したいから。
中学生の時、クラスの男子に馬鹿にされてから、ずっとコンプレックスだった。
家にいる時くらいしかマスクを外せなくなって、学校でマスクを外すことなんかできなかった。
こうやって一人の時にマスクを外すのは開放的で、呼吸をするたび心地がいい。
「まだ誰も来なさそうだし、もう少し外しておこう」
「いるけど」
「え"っ‼︎」
声が聞こえた先を見ると、教室の入り口に立っていたのは――
「晶くん……‼︎」
私は焦りながらもバッと勢いよくマスクをつけた。
もう手遅れだけど、心臓がバクバクして止まらなかった。
「み、見た……?」
私は恐る恐る聞く。
「見ちゃった♡」
そう言う晶くんの顔は、今まで見たこともなかった笑顔だったのです。
私は恐ろしくなりながら、あわあわと慌てる。
「み、見なかったことにできませんかっ‼︎ 忘れて! 忘れてください!」
「もしかして、ホクロ隠してたの」
ぎゃー! 見られてる! ちゃんと見られてる!
また、あの時みたいに馬鹿にされるんだ。クラス中に広まって、みんなにマスク取れって言われるんだ……!
「いいじゃん。色っぽくて」
い、色っぽくて……?
「なななな、なんですか。色っぽくてって……」
「俺、忘れ物取りに来ただけだから。じゃあね」
「あ、ちょっと! 絶対に、絶対に秘密にしてね!」
私は立ち上がってそう言うと、晶くんは振り返ってこう言った。
「いいよ、秘密ね」
そう言った晶くんの表情は、まるでおもちゃを見つけた子供のような笑顔でした。
そうしてガラガラと音を立てて教室の扉が閉まる。
私はヘニョヘニョと力なく椅子に座った。
「な、なんで晶くんにバレちゃったんだろう……」
この時の私はまだ、晶くんが黒王子だと知らなかったのです。
学校生活にも慣れてきた頃。
私、森下果穂は未だに隠していることがある。それは私がこの高校生活でずっと隠し通したいことだった。
それは――
「果穂、マスク暑くない?」
いつも一緒にいる高野愛美ちゃんは、下敷きで顔を扇ぎながらそう言った。
「全然暑くないよ。私は平気だから」
「そっかー。やっぱりまだマスク外せないのー?」
「うん。まだちょっとできないや」
私は苦笑いをしてそう答えた。
「蒸れたりしない?」
「うん。平気平気」
私はマスクを外せない。
あることを隠したくて、マスクを外すことができない。
だから私は、お昼休みでも食事はほとんどしない。食べるとしてもマスクの下から食べられるもの。
飲みものとか、ゼリー飲料とか、そういうものしか学校では食べたりしない。
「あっ、晶くんおは〜!」
愛美ちゃんがそう言って手を上げた先にいたのは、神崎晶くん。
「おは」
いつもクールで笑ったところは見たことがない。
真っ黒な髪に端正な顔立ち、頭も良くて運動もできる。
このクラスだけじゃなくて、他のクラスや先輩たちからも大人気。
私には、程遠い人。
愛美ちゃんは色んな人に挨拶ができて、すごいなぁって思う。私にはできないや。
目の前を通り過ぎていく晶くん。
私とは挨拶せず、目が合うこともなく、過ぎていく。
「晶くん、どう思う?」
小さな声で愛美ちゃんがそう言った。
「ど、どうって、別になんとも……。ただのクラスメイトじゃん」
「本当〜? 私はかっこいいと思うけどな」
「愛美ちゃんには周人くんがいるじゃん」
「まぁまぁ、そうだけどさ。ってかまだ片想いですけどー」
そう言って愛美ちゃんはぷぅーっと頬を膨らませた。
「あれだけ大人気な晶くんだから、きっとみんなお近づきになりたいって思ってるよ」
「そりゃそう! 他のクラスの子も先輩も狙ってるからね! でもさぁ」
「なーに?」
「高校入ってから恋人いないらしいよ」
「そうなんだ」
「あれ、興味ない? 大チャンスなのに!」
「チャンスって言っても、私なんかじゃ絶対無理だから。ほら、チャイム鳴るよ」
「はーい。じゃ、また来るね!」
そう言って愛美ちゃんは自分の席へ戻って行った。
愛美ちゃんが座ったタイミングで、チャイムが鳴り響いた。
◇◇◇
放課後。
「それじゃ、部活行ってくるね! また明日!」
「うん。またね」
部活がある愛美ちゃんを教室で見送ったあと、私はみんながいなくなるのを待った。
特に用事があるわけでも、勉強のために居残りしているわけでもない。
ただ、放課後の静かな教室に一人でいることがなんとなく好きだった。
私はみんながいなくなるまで本を読んだ。
足音が遠くなり、騒がしかった声が聞こえなくなると、本を閉じて伸びをする。
「ん〜……。はぁ」
今朝はあんなこと言ったけど、本当はマスクなんかしたくない。
こんな真夏にマスクなんて自滅行為。
私はキョロキョロを周りを確認してから、マスクを外した。
「はぁ〜〜〜〜。新鮮な空気だぁ」
深呼吸をして、酸素を取り込む。
私がマスクをしているのは、口元にあるホクロを隠したいから。
中学生の時、クラスの男子に馬鹿にされてから、ずっとコンプレックスだった。
家にいる時くらいしかマスクを外せなくなって、学校でマスクを外すことなんかできなかった。
こうやって一人の時にマスクを外すのは開放的で、呼吸をするたび心地がいい。
「まだ誰も来なさそうだし、もう少し外しておこう」
「いるけど」
「え"っ‼︎」
声が聞こえた先を見ると、教室の入り口に立っていたのは――
「晶くん……‼︎」
私は焦りながらもバッと勢いよくマスクをつけた。
もう手遅れだけど、心臓がバクバクして止まらなかった。
「み、見た……?」
私は恐る恐る聞く。
「見ちゃった♡」
そう言う晶くんの顔は、今まで見たこともなかった笑顔だったのです。
私は恐ろしくなりながら、あわあわと慌てる。
「み、見なかったことにできませんかっ‼︎ 忘れて! 忘れてください!」
「もしかして、ホクロ隠してたの」
ぎゃー! 見られてる! ちゃんと見られてる!
また、あの時みたいに馬鹿にされるんだ。クラス中に広まって、みんなにマスク取れって言われるんだ……!
「いいじゃん。色っぽくて」
い、色っぽくて……?
「なななな、なんですか。色っぽくてって……」
「俺、忘れ物取りに来ただけだから。じゃあね」
「あ、ちょっと! 絶対に、絶対に秘密にしてね!」
私は立ち上がってそう言うと、晶くんは振り返ってこう言った。
「いいよ、秘密ね」
そう言った晶くんの表情は、まるでおもちゃを見つけた子供のような笑顔でした。
そうしてガラガラと音を立てて教室の扉が閉まる。
私はヘニョヘニョと力なく椅子に座った。
「な、なんで晶くんにバレちゃったんだろう……」
この時の私はまだ、晶くんが黒王子だと知らなかったのです。
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