黒王子くんはマスクの下を暴きたい!

三話:席替えの時間

 それからと言うもの、よく晶くんから声をかけられるようになった。

 毎朝、教室ですれ違うと「おはよ」と挨拶される。

 最初はドギマギしたけど、私もちゃんと返事ができるようになった。

 私はずっと、落ち着かないのです。

 なぜか心がソワソワして落ち着かないのです。

 晶くんの黒い微笑みが脳裏に焼き付いて離れなかったのです。

「もしかして私……。いやいやいや!」

 そう言って頭を振ると、愛美ちゃんが不思議そうにする。

「悩み事ー?」

「……うん。……まぁ、悩み事」

「私には秘密?」

「ま、まだ秘密!」

「もしかして、晶くんのこととか?」

「うぐっ……!」

 心臓にグサリと刺さる言葉……。

 そうです、晶くんのことです……。

「図星でしょ〜」

「い、いやぁ。違うよ、あはは……」

 私は引き攣った笑いをぶら下げて誤魔化した。

 きっと感のいい愛美ちゃんにはバレていそうだけど、今はまだ黙っておきたい。

 すると、教室から担任の菅野先生が入ってきた。

「ちょっと早いけど席つけー」

 その声を聞いて、愛美ちゃんはこう言う。

「なんだろ。私戻るね、じゃ!」

「うん、また」

 そうして愛美ちゃんは席に戻っていった。

 クラスのみんなも自分の席に着くと、先生はこう言う。

「席替えするぞー」

『やったー‼︎』

 クラス中がガヤガヤと騒がしくなる。

 席替えかぁ。もう夏になったしそんな時期か。

 愛美ちゃんと近くになれないかな。

 そうして席替えが始まった。

 席替えは簡単。くじを引いて当たった席が自分の席になる!

 先生は黒板に座席と番号を書いていく。教卓にはくじ引きの箱が置いてあった。

「それじゃあ、この列から順番に引いていけー」

 くじ引きが始まった!

 どんどんくじが引かれていって、私の番になった。

 後ろの席がいいなぁ、なんて思いながらくじを引くと――

「32番!」

「森下はこの席だな」

 先生が指さす座席表を見ると、隣に書かれていた名前は神崎晶の文字だった。

 あ、晶くんと隣の席……。

 チラリと晶くんの方を見ると、バチっと目が合った。

 ドキッとして私はすぐに目線を逸らす。

 そのままくじ引きは進んでいき、席が決まった。

 場所は窓際奥の角席。

 嬉しいことに、前の席が愛美ちゃんになった!

 そして愛美ちゃんの隣は周人くん! よかったね、愛美ちゃん!

 なんと言っても、私の隣は晶くん……。

「それじゃあ、机移動しろー」

 先生の声を合図に、机の一斉移動が始まる。

 移動が終わると、愛美ちゃんが後ろを向いて小さい声でこう言う。

「やったね果穂……! 近くになれた!」

「愛美ちゃんもよかったね! 隣……」

「しー!」

 人差し指を口元に当てて、静かにしてとポーズした。

 自分の隣を見ると、晶くんがいる。

 少し前までは全然なんとも思わなかったのに、あれ以来なぜかドキドキしてしまう……。

「森下さん」
「は、はいっ!」

 晶くんに声をかけられ、背筋をピンと伸ばして返事をした。

「よろしく」
「よ、よろしくね」

 こんなにも晶くんとの出来事が連続すると、嫌でもドキドキしちゃうよ!

 晶くんがどう思っているかは分からないけど……。

 そうして、そのまま授業が始まった。

 なんだか落ち着かなくて集中ができない……。

 チラリと晶くんを見ると、晶くんは退屈そうに窓の外を眺めていた。

 やっぱり、綺麗な顔……。

 そう思って見惚れていると、晶くんの視線が私に向いた。

「…………‼︎」

 そうして晶くんは、口角を上げて微笑んだ。

 なんだかその微笑みは、私にとって毒のような気がした。

 バクバク動く心臓。こんな日々が続くのなら、心臓が持たない……!
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