黒王子くんはマスクの下を暴きたい!
四話:惚れちゃいけない
放課後。
部活にも何も入っていない私にとって、放課後はとっても暇な時間だった。
校内の外、花壇が並んでいるところを歩いていると、枯れかけている花を見つけた。
「かわいそうに……」
暑さで干からびているようにも思える花。
せっかく綺麗に咲くことができるのに、咲けないのはかわいそうだと思った。
「ジョウロないかな」
辺りを見回してジョウロを探す。
すると、校舎に立てかけるようにポツリと青いジョウロが置いてあった。
「使ってもいいよね」
そう言って私はジョウロに手を伸ばし、水道がある場所を探した。
「確かこっちにあったよね」
少し歩くと、水場があり、そこでジョウロに水を汲んで、先ほどの花壇へ向かった。
花壇に着くと、私は鼻歌を歌いながら花に水をかけた。
「元気に育ってね〜」
植物係というわけでもないけど、こういうのは放って置けない。
すると――
「元気になるといいね」
そう声がして、振り向くとそこには宮本周人くんがいた。
「あ、周人くん」
「森下さん、お花好きなの?」
そう言って周人くんはしゃがみ込み、花と同じ目線に座った。
「うん。やっぱりお花って綺麗だし可愛いし、小さい頃はお花屋さんになりたいなぁとか思ってたんだ」
「ふふっ、いいね。お花屋さん。森下さんに似合いそう」
「えへへ、そうかなぁ」
そうやって微笑む周人くん。
ふわふわした茶色の髪を日光でさらに色素を薄くさせている。
くりくりした大きな目はなんとも羨ましい。
「席、近くなったね」
「うん。愛美ちゃんとも近くなれて嬉しい」
「森下さんの隣、神崎くんだね」
「そ、そうだね」
「僕、森下さんの隣が良かった」
「…………え?」
私は水をかける手を止めた。
周人くんがなんて言ったか、理解ができなかった。
「変なこと言ってごめんね。でも、僕の本音だから」
「えっと、えっと……」
私の頭に浮かんでいるのは、愛美ちゃんの顔だった。
こんな会話を愛美ちゃんに聞かれたら、とか。愛美ちゃんがいるのに、とか。
そういうことが巡って、困惑が隠しきれなかった。
そもそも、私は周人くんとそんなにお話ししたことがない。
愛美ちゃんはよく話しかけているけど、私は近くにいるだけで会話はしない。
「やっぱり、森下さんも神崎くんが好き?」
「へ? いや、違う……!」
「そっか、それなら良かった」
安心したような表情を見せる周人くん。
でも私の心は安心なんかできなかった。
「森下さんって、マスク外さないよね」
「あ、……うん。外せないんだ、変だよね」
「変じゃないよ。僕は別にマスクが外せる外せないとか気にしてない。外見だってなんでもいいし」
私はキョトンとした。
そんな風に思っている人がいたんだなんて、思わなかったからだ。
「でも、私は……」
「こうやって枯れそうな花に水をあげられる人って、なかなかいないよ。この花が枯れそうなのは、みんなが見て見ぬふりをしているから。そうでしょ?」
そう言って周人くんは立ち上がった。
そしてこちらを向き、言葉を続ける。
「僕は、そうやって小さな花でも見捨てないような人が好きなんだ」
まっすぐな視線。
歪むことのない芯のある視線が、私と交わった。
「…………今、好きって」
「あははっ。僕は嘘つけないんだ」
とくりと心臓が動いた。
私、周人くんにこんな気持ち持っちゃいけないのに……。
周人くんだけには、ダメなのに……。
「…………私は」
「言わないで。きっとすぐには無理だってわかってる。だけどいつか、いつかきっと森下さんを振り向かせてみせるから。じゃあ」
「あ、ちょっと……!」
周人くんは、「じゃあ」と言ってその場を去っていった。
私はジョウロを片手に持ち中がら、呆然と立ち尽くした。
愛美ちゃんに言えない秘密ができちゃった……。
絶対にばれちゃいけない。そして、絶対に周人くんに惚れちゃいけない。
私は、花壇に咲いた花を見るように俯いた。
部活にも何も入っていない私にとって、放課後はとっても暇な時間だった。
校内の外、花壇が並んでいるところを歩いていると、枯れかけている花を見つけた。
「かわいそうに……」
暑さで干からびているようにも思える花。
せっかく綺麗に咲くことができるのに、咲けないのはかわいそうだと思った。
「ジョウロないかな」
辺りを見回してジョウロを探す。
すると、校舎に立てかけるようにポツリと青いジョウロが置いてあった。
「使ってもいいよね」
そう言って私はジョウロに手を伸ばし、水道がある場所を探した。
「確かこっちにあったよね」
少し歩くと、水場があり、そこでジョウロに水を汲んで、先ほどの花壇へ向かった。
花壇に着くと、私は鼻歌を歌いながら花に水をかけた。
「元気に育ってね〜」
植物係というわけでもないけど、こういうのは放って置けない。
すると――
「元気になるといいね」
そう声がして、振り向くとそこには宮本周人くんがいた。
「あ、周人くん」
「森下さん、お花好きなの?」
そう言って周人くんはしゃがみ込み、花と同じ目線に座った。
「うん。やっぱりお花って綺麗だし可愛いし、小さい頃はお花屋さんになりたいなぁとか思ってたんだ」
「ふふっ、いいね。お花屋さん。森下さんに似合いそう」
「えへへ、そうかなぁ」
そうやって微笑む周人くん。
ふわふわした茶色の髪を日光でさらに色素を薄くさせている。
くりくりした大きな目はなんとも羨ましい。
「席、近くなったね」
「うん。愛美ちゃんとも近くなれて嬉しい」
「森下さんの隣、神崎くんだね」
「そ、そうだね」
「僕、森下さんの隣が良かった」
「…………え?」
私は水をかける手を止めた。
周人くんがなんて言ったか、理解ができなかった。
「変なこと言ってごめんね。でも、僕の本音だから」
「えっと、えっと……」
私の頭に浮かんでいるのは、愛美ちゃんの顔だった。
こんな会話を愛美ちゃんに聞かれたら、とか。愛美ちゃんがいるのに、とか。
そういうことが巡って、困惑が隠しきれなかった。
そもそも、私は周人くんとそんなにお話ししたことがない。
愛美ちゃんはよく話しかけているけど、私は近くにいるだけで会話はしない。
「やっぱり、森下さんも神崎くんが好き?」
「へ? いや、違う……!」
「そっか、それなら良かった」
安心したような表情を見せる周人くん。
でも私の心は安心なんかできなかった。
「森下さんって、マスク外さないよね」
「あ、……うん。外せないんだ、変だよね」
「変じゃないよ。僕は別にマスクが外せる外せないとか気にしてない。外見だってなんでもいいし」
私はキョトンとした。
そんな風に思っている人がいたんだなんて、思わなかったからだ。
「でも、私は……」
「こうやって枯れそうな花に水をあげられる人って、なかなかいないよ。この花が枯れそうなのは、みんなが見て見ぬふりをしているから。そうでしょ?」
そう言って周人くんは立ち上がった。
そしてこちらを向き、言葉を続ける。
「僕は、そうやって小さな花でも見捨てないような人が好きなんだ」
まっすぐな視線。
歪むことのない芯のある視線が、私と交わった。
「…………今、好きって」
「あははっ。僕は嘘つけないんだ」
とくりと心臓が動いた。
私、周人くんにこんな気持ち持っちゃいけないのに……。
周人くんだけには、ダメなのに……。
「…………私は」
「言わないで。きっとすぐには無理だってわかってる。だけどいつか、いつかきっと森下さんを振り向かせてみせるから。じゃあ」
「あ、ちょっと……!」
周人くんは、「じゃあ」と言ってその場を去っていった。
私はジョウロを片手に持ち中がら、呆然と立ち尽くした。
愛美ちゃんに言えない秘密ができちゃった……。
絶対にばれちゃいけない。そして、絶対に周人くんに惚れちゃいけない。
私は、花壇に咲いた花を見るように俯いた。