黒王子くんはマスクの下を暴きたい!

五話:私に用……?

 自宅。夜。

 なんだか最近、悩み事が増えた気がする。

 他の人に言えないような悩み事ばっかり増えていく。

「はぁ……」

 私は、ベッドにボフッと倒れ込んだ。

 嗅ぎ慣れた自分の匂いに安心感を覚える。

「…………どうすればいいんだろう」

 晶くんのことも、周人くんのことも、頭の中でぐちゃぐちゃに混ざる。

 ふと晶くんを見た時に交わる視線と、不適な笑み。

――僕は、そうやって小さな花でも見捨てないような人が好きなんだ。

 周人くんの言葉。

 その二つがぐちゃぐちゃと混ざり合う。

「うわーーー!」

 私はベッドの上でジタバタと暴れた。

 最近色々なことが起こりすぎて追いつけない……!

 そして心臓が持たないよ……!

「今日は眠れなさそうだな……」

 そう呟いて、夜がふけていった。

◇◇◇

 学校。昼休み。

 今朝も晶くんとすれ違った時、「おはよ」と挨拶された。

 そして、周人くんとすれ違った時も、「おはよう」と挨拶された。

「はぁ……」

 私は大きな溜め息をついた。

「今日は一段と大きな溜め息だね」

 額に手をついて項垂れる私に向かって、愛美ちゃんはお弁当を食べながらそう言った。

「悩みが尽きません……」

「なんかあったら私に相談しなね」

「ありがとう……」

 相談したくてもできないよ。特に周人くんのことなんか……。

 モヤモヤとすっきりしない心。

 愛美ちゃんのことは裏切りたくなんかない。高校になってできた大切な友達だから……。

 それに私は、愛美ちゃんの恋を心の底から応援していた。

 その気持ちは、今でも変わってない。

 変わってない……のに。

「私さ、夏休みになったら周人くんを誘おうかなって思ってるの」

「え、本当?」

「うん。ずっとこのままじゃダメだなって思った。ただ普通に話してるだけじゃなーんにも進展しないでしょ? だから、遊びに誘って、二人きりでもっとお話ししたいなって」

「いいと思うよ! 応援してる!」

 愛美ちゃんの勇気を肯定したかった。

 だけど私は「愛美ちゃんならいけるよ」と言えなかった。

 どうしてもこの前の言葉がフラッシュバックして仕方がなかった。

「ありがと、そう言ってもらえると勇気出るよ」

 そうやって笑う愛美ちゃんの微笑みが、今の私には苦しかった。

 その気持ちを引きずりながら、あっという間に放課後になった。

「じゃあ、また明日!」

「うん、またね」

 愛美ちゃんを見送って、私は窓の外を眺めた。

 前みたいにマスクを外すためじゃなく、心を落ち着かせたくて教室に残った。

「はぁ……」

 小さく溜め息を吐く。

 教室にいた人たちは徐々にいなくなり、私だけがポツリの残った。

 しんと静かな教室。聞こえてくるのは、外から聞こえる部活動の声だけ。

 私は窓の外を眺めながら、机に突っ伏した。

 ゆっくり過ぎていく時間が、今は心に寄り添ってくれた。

「森下さん」

 声が聞こえる方に顔をあげると、教室の入り口に晶くんがいた。

「晶くん……」

 晶くんはそのままこちらに歩いてきて、自分の席である、私の隣の席へ座った。

「考え事?」

「え、あ、うん。ちょっとね」

「そ」

 再びしんと静まる教室。

 なんだか、ソワソワして居心地が悪い。

「忘れ物を取りに来たの?」

「いや」

 私が質問すると、晶くんは否定した。

「……? じゃあ、なんで?」

「森下さんいるかなって思って来た」

「わ、私……⁉︎」

「やっぱりいた」

 ドクンと心臓が跳ねた。

 驚きもあって、頭が混乱する。

「な、何か私に用があったの?」

「別に、大した用はない」

 でも、その言い方だと何か用があるってことじゃん。とか思った。

「それで、どうしたの?」

 そう言うと、晶くんは立ち上がって私に顔を近づける。

 顔のすぐ近くに晶くんの整った顔。

 私の心臓はまたドクンと跳ねた。

 そして、晶くんはニヤリと笑ってこう言う――

「俺は森下さんと仲良くなる。そんで、そのマスクの下をもう一回暴いてやる」

「へ?」

 マスクの下を、暴く……⁉︎

「いいよね、森下さん?」

「ちょちょちょちょっと……! 私は絶対に……!」

「俺にだけ見せてくれればいいの。ね?」

 そう言って美しい笑みを浮かべる晶くん。

 この人、絶対にドSだ……‼︎
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