想いを伝える人 ~天命に導かれる旅~ 【新編集版】
 その夜、嫌な夢を見た。
 お金の夢だった。
 それも督促される夢で、税務署や役所の人に追いかけられていた。
 逃げても逃げても追いかけられ続け、追い詰められた先はビルの屋上だった。
 逃げ道がなくなったわたしは落下防止用のフェンスを乗り越えて身を投げたが、何故か地面に激突することなく、ふわっと降り立った。
 すかさず走り出そうとすると、同じように屋上から飛び降りてきた人たちに取り囲まれて督促状を突きつけられた。
 何枚も突きつけられたので、「払えない。ない袖は振れない」と叫んでその人たちを押しのけたが、いきなり警官が現れて手錠をかけられた。
 地面に腰を落として抵抗したものの無駄な努力に終わり、引きずられるようにして警察署に連れて行かれた。
 
 留置場の檻の中に入れられると怖い顔をした厳つい男が入ってきて、正対した瞬間、胸ぐらを掴んでペッと臭い唾を吐いた。
 わたしがえずく(・・・)と、「未納により百叩きの刑に処する」と言って床に叩きつけられた。
 痛みに呻いていると、男の手がズボンにかかり、無理矢理脱がされた。
 お尻が丸出しになった。
 鞭で思い切り叩かれた。
 余りの痛さに「止めてくれ~!」と叫んだ瞬間、目が覚めた。
 
 汗びっしょりになっていた。
 下着とパジャマを着替えたが、悪夢はまだ纏わりついていた。
 でも、それによって督促状の内容をはっきりと思い出すことができた。
 税金と健康保険料だった。
 二度と見たくない悪夢だったが、もしかしたらそれらのことを知らせてくれたのかもしれなかった。
 いや、〈計算が甘いよ〉と気づかせてくれたに違いなかった。
 
 100万円で1年間生活する計画を立てていたが、税金と健康保険料のことは頭から完全に抜け落ちていた。
 昨年の収入から考えると結構な金額を支払わなければいけないのは間違いないのだ。
 ということはつまり手持ちの100万円では半年も持たないかもしれないということだった。
 厳しい現実に打ちのめされそうになったが、そのことによってただ面接結果を待っているだけではダメなことに気づき、落ちた時のことを考えて次の候補先を探さなければいけないと尻に火が付いた。
 
 すぐに支度をして食事もとらずにアパートを出た。
 ハローワークに行くと、前回と同じ人が応対してくれた。
 面接が終わって結果待ちであることを伝えた上で、落ちた時に備えて次の候補を探したいので手伝って欲しいとお願いした。
 今回と同じライター職を希望していることも併せて伝えた。
 快く受けてくれたが、今回のような固定給の月給制はなかなかないとも言われた。
 それでも「探しておきますから」と笑顔を見せてくれたので、深々と頭を下げてハローワークをあとにした。

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