想いを伝える人 ~天命に導かれる旅~ 【新編集版】
「お見せしたいものがあります」

 社長は机の横にある書棚から何かを取り出した。
 厚紙で出来たような大きな筒だった。
 わたしたちの前で蓋を開けると、丸まった紙が出てきた。設計図だった。
 
「まだ計画段階ですが、これから時間をかけて一つずつ実現させていこうと思っています」

 その図面には『山小屋風の宿泊施設』があり、それに併設する『カフェ』と『リラクゼーション・エステティック施設』が描かれていた。
 更に、『美術館』と『アトリエ』、『ミニシアター』や『ライヴハウス』まであった。
 そこから一気に社長の夢語りになった。

「カフェで使う食材は生産者が明記されたものだけを使おうと思っています。誰が作って、どう加工し、管理し、流通されているのかを把握したいからです。トレーサビリティですね。野菜も肉も魚もすべてこの考え方を徹底させようと思っています。もちろん野菜は農園で作ったものを使います。それからエステの施設はすべて個室にして、大きな窓からは自然の風景が見えるようにするつもりです。それだけでなく、公園の中を流れる川の音、木々でさえずる鳥の声、風にそよぐ葉の音などを録音して、個室の中でその音を流したらどうかと思っています。施術を受ける方が心の底からリラックスし、ぐっすり眠っていただける環境を作りたいのです」

 すると隣で聞いていた結城がうっとりとしたような表情になったが、話はまだ続いていた。
 
 
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