死にたい僕と生きたい君との最初で最後の恋

クラスメイトの視線が一斉に僕に集まったのが分かった。

叫び声を上げた男は相変わらずニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら僕に近づいてきた。

「俺の友達にお前と同じ中学だった奴がいるんだよ。
そいつに聞いたらさ、
お前、中学の時
電車で盗撮したらしいじゃん?」

ざわつく教室。
張り詰めた空気。
そして、
あからさまに軽蔑して見下し、
汚い物でも見るかのような視線が僕に突き刺さる。

「お前、写真部っつー理由つけていつもカメラ持ってたんだろ?
ははっ!マジヤベェじゃん!
写真部じゃなくて盗撮部だろそれ!」

笑いながら僕の顔を覗き込む。

……違う、
僕は盗撮なんてしていない!
それはちゃんと証明だってされてるし、
僕は巻き込まれただけだ!
盗撮犯の近くに偶然いたから間違われたんだ!

防犯カメラと近くにいた人の証言、
何より本当の犯人がその後すぐに見つかり僕の濡れ衣は比較的早い段階で晴れた。

だけど、その電車の同じ車両に同じ学校の生徒がいた。
その生徒は、犯人が見つかり僕の濡れ衣が晴れる前にその場を去り、
そして学校で格好のネタを見たとばかりに面白可笑しく言いふらした。

それからは地獄だった。
盗撮犯、なんてレッテルを貼られまわりから人は去っていった。

そんな日々から2週間が過ぎた頃、
それは全て誤解で僕は盗撮なんてしていない、
巻き込まれただけだと、あの盗撮事件を担当した警察官が父親だという、同じ学校の正義感溢れた先輩が証言してくれて僕の濡れ衣は晴れたけれど、
一度流れた噂は簡単には消えなかった。
一度染み付いた噂は、
それが嘘だろうと本当だろうと、そんなのどうでもいいんだ。

ただ、面白可笑しく繋がれていくだけ。

濡れ衣が晴れたからと言って僕の日常はそれまでの平凡でそれなりに平和な日常には戻らなかった。

一度離れた人はその後も離れたまま。

結局僕は卒業までひとりで過ごしていた。

だから高校は同じ中学の生徒が受けない高校を選んだ。
入学してからはとにかく目立たないように、
いてもいなくてもどうでもいい位の存在で、
誰にも注目されずに、でも下手にクラスで浮かないように、
それだけに気を配り細心の注意を払った。

なのに、
なのにどうして……!

「なー、灯里。
こいつ、マジヤベェって!
灯里も盗撮されてんじゃね?」

僕から離れて今度は望月に近づいていく。

……そうだ、
こいつは、望月の事が気に入っていたんだ。

学校行事やクラスのイベントでは必ず望月に近づいていた。
何かと望月に関わろうとしていた。

だから、
僕が気に入らなかったんだ。

僕みたいな二軍、三軍の地味な奴が、
一軍の望月に近づいただけじゃなく、
つきあってまでいるんだから。

「マジでさっさと別れた方がいいって!
じゃなきゃマジで盗撮されるって!」

相変わらず好き勝手な事をペラペラと話すこいつに腹ただしさや悔しさが湧き上がる。
だけど、
それよりも望月がどう思っているのか、
そっちの方が気になった。

……きっと軽蔑してる。
最低だと思っているのだろう。

きっと、
望月も僕を蔑み、汚く思っているんだ。

……望月の顔が見れない。

「あっ!
もしかしてもう既に盗撮されて弱み握られてるとか!?
うわー、マジないわー。
なぁ灯里ー、俺には本当の事言っていいって!
ほら、このキモい盗撮ヤローに弱み握られて仕方なくつきあってましたー、ってさ!
俺はそんな事で灯里の事嫌いにならねーし。
全然許すって!」

……胸糞悪い。

なんで望月が、
お前に許しを請わなきゃいけないんだよ。

望月は、
死にたいという思いだけの僕を救いあげてくれた、
僕に、
生きたいと思わせてくれた。

そんな望月が、
なんでお前に許されなきゃいけないんだ……!

望月を、
馬鹿にするな!!

「いい加減に……」

僕の口から言葉が出たその瞬間、
僕の言葉を遮るように望月が口を開いた。

「ふざけんなっ!」

まだニヤニヤと笑う男に望月は
そう、叫んだ。

その時の望月の表情は、
怒りと悲しみがごちゃ混ぜになっているようだった。

「え……?
灯里?」

途端にざわつくクラスメイト達。

男は先程までのニヤついた顔から一転、
訳が分からないとでもいうような、
驚きと焦りが浮かんでいる。

「何が盗撮だ!
何が弱みを握られてるだ!
早見君はそんな事してない!
弱みを握ってるのは私の方!
私が早見君を縛りつけてるの!」

「え……?」

僕が、
弱みを握られてる?
それは、
僕が死のうとしてた事?

でも、
僕は望月に縛りつけられてなんていない。

訳が分からない。

だけど、
これだけは分かる。


望月が僕を信じてくれた。

それだけが、
僕は泣きたくなる位に嬉しかった。

あの時、誰も僕を信じてくれなかった。

それなのに、

君は僕を、
信じてくれるんだね。












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