タナトスの影
「はぁっ……はぁっ……」

僕は、ネットで検索した、自宅から数千キロ離れた、山奥のいわく付きの神社に参拝に来ていた。長い緩やかな坂道に呼吸が乱される。

「此処が、死神様に……会えるっていう、死神神社(しにがみじんじゃ)……」

ようやく辿り着いた、鳥居の前で僕は、両膝に手をついて、呼吸を整えた。

何のシミなのか分からないが、酷く黒ずんだ鳥居をくぐり抜けると、骨組みだけの狛犬が左右に並び、手水舎(てみずや)の水は、何故か真っ赤に染まっていて気味が悪い。

拝殿に辿り着く頃には、辺りは急に霧がかかり、視界が、かなり悪くなってくる。

僕は、ジーンズのポケットから、444円を取り出すと、カッターで、親指を僅かに傷つけて硬貨を血で濡らした。

賽銭箱にジャラジャラと、真っ赤に染まった硬貨を投げ入れると僕は、ネットで調べた通りに、願いを言葉にだす。

「僕の名前は、黒田満(くろだみつる)です。住所は、東京都黒髪市四丁目……死神様にお願いがあって参りました。僕は、今、毎日学校で嫌がらせをされています。もう耐えられません。どうか助けてください」

僕は、目をぎゅっと瞑ったまま、耳を澄ます。シンとしていた境内の、木々の葉がザワザワと揺れ始め、強い横殴りの風が僕を包む。

恐る恐る、薄く瞳を開けるが誰もいない。
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