Love Story〜結くんとマリィの物語〜
必死で逃げるように走り、コンビニに入った茉凛。

バサッ…と、エコバッグが落ちる。
身体が、ガクガク震えていた。

茉凛は幼少の頃、酔っ払いの男性にいたずらをされたことがある。

警戒心の薄い茉凛は、男性の“お菓子あげるよ!”の言葉に安易に付いていき、いたずらされかけた。

幸いたまたま通りがかった隣に住むおばさんに助けられ、大事には至らなかったが、心に傷を抱えたのだ。

忘れかけていた記憶が蘇り、足がすくんで動けなくなっていた。

どうしよう…
どうしよう…
どうしよう…

アパートはすぐ近く。
男が追いかけて来てる風でもない。

でも、怖くて動けない。

茉凛はスマホを取り出し、結翔に電話をかけた。

長いコール。
翌日に早朝からの日帰り出張を控えている結翔は、早めに寝ると言っていた。

それはわかっている。

しかし、結翔のことしか頭に浮かばない。

茉凛は(結くん、お願い出て!!)と、スマホを握りしめていた。

しばらくコールが続き、やっと…結翔が電話に出た。

『…………ん…はい…』
寝ていたのだろう。
少しかすれた声の、結翔。

「あ!ゆ、結くん!!」

『え…マリィ?
ん…どーしたの?』

「結くん、助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!!」

『え…!?
マリィ!?』

茉凛の切羽詰まった声に、結翔の頭が一気にさえる。

「酔っ払い、おじさん、怖い!!!」
茉凛は恐怖で、単語をぶつけるように話す。

『マリィ!落ち着いて!?
大丈夫だから!
今、何処にいるの!?』

「あ…コンビニ、家の、近くの…」

『わかった!
すぐに行くから、そこで待ってて!
大丈夫!大丈夫だからね!』

30分程して、コンビニの自動ドアが開く。
息を切らした、結翔が入ってきた。

「マリィ!何処!?」
店内に聞こえるように呼ぶと、奥から駆けてくる足音がして茉凛が抱きついてきた。

「結くん結くん結くん…!!!」

「良かった…
マリィ、もう大丈夫だからね!」
安心させるように頭を撫でると、茉凛も漸く落ち着きを取り戻した。

そして、結翔にアパートまで送ってもらった茉凛。

「結くん、ごめんなさい!
明日は朝早くから忙しいのに、呼び出して……
本当にごめんなさい!!」 

切羽詰まってたとはいえ、結翔に迷惑をかけてしまった事を今になって後悔している茉凜。
何度も頭を下げた。

「ううん!
大丈夫だよ!
ほら、中入ろ?
茉凛が寝るまで、傍にいるから!
ごめんね。泊まってってあげたいんだけど、朝早いから…」

「そんな……
これ以上、迷惑かけられません!
結くん、私もう大丈夫です!
後はお風呂入って寝るだけだし、本当に大丈夫ですから!
それよりも、早く帰って休まないと!」

「ダーメ!
こんな不安そうなマリィを置いて帰るなんて出来ないよ。
僕だってほんとはマリィの傍にいたいし、ギリギリまで傍にいさせて?」


結局結翔は、茉凛が風呂に入り、眠りつくまで傍にいてくれたのだった。
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