失恋した私を慰めてくれるのは、オネェな彼(彼女?)でした



「うぅっ………」



自分がなんでこんなに悲しんでるとかよく分からない。


別にこのまま彼女ができていなくとも、こんな奥手な私がなにかできたわけでもないし。

そもそも西野くんの彼女の有無すらも知らなかったくせに。


むしろ居てくれた方が都合が良かったのかもしれない。

あんなところで人の盗み聞きで失恋なんてすることなかっただろうし。


最悪したとして、結婚の噂が流れてくる頃だろう。



…それはそれで盛大なダメージか

なら傷は浅く済んだ方なのかな



「あら、真由莉ちゃん〜随分暗いお顔して」


「ますたぁ…」


ジョッキ片手に失恋の感傷に浸っていれば、ひょいと姿を現せて声をかけてくるこの店のマスター。


オネェ口調だけれど、見た目はゴリゴリの男性だ。

体格はそれなりによくて、ツーブロックのショートヘアで、女の子受けしそうな整った顔だ。


私の目の保養でもある。



「また失恋したよおぉ…!!」


「あらまた失恋したの〜?」



ゴリゴリの見た目に似つかわしくない、女性らしい身振りで、自身の頬に添えて眉を垂らすマスター。


私は失恋する度、常にマスターに弱音を漏らす。

話せる相手がいない分、行きつけのこのバーで、私の相手をしてくれるマスターに全てをさらけ出す勢いでは常々愚痴を聞いてもらっている。


それくらい居心地が良くて、包容力のあるマスターの雰囲気に解放させられている。



「前言ってた彼よね?あの〜に、にし、」


「西野くんだよぉ、マスターわたしがいう男の人の名前全然覚えてくれないじゃん〜」


「あぁそうそう、西野くん!あら、そうだったかしら?わたし物覚え悪いのかもしれないわ〜」


「わたしが好きなお菓子は1回で覚えてるくせに…?」



「う…あは、そうだった?まあでも真由莉ちゃんほどじゃないわよ!それで、今度はどんな風に失恋したの?」



誤魔化して話そらされた…



やたら嬉々とした表情で私の失恋話を待ち望むマスターに少しだけむっとする。

私の失恋話はそんなに旨い酒のツマミなのか???



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