戦略的恋煩い
 律輝はその後シャワーを浴びてくると言い、私はソファに座って、ローテーブルを挟んだ向こう側に配置されたテレビから台風情報などを見て大人しく待っていた。


「家に人がいるって変な感じ」


 すると、ドアが開く音がして律輝の声がした。何気なく振り返ると、薄手の服を着た、濡れた髪の律輝が近づいてくる。

 いつも分けている前髪が目にかかって、艶やかな目配せをモロに食らってしまった。やばい、色気倍増してる!


「よっ………ハッ!」


“よっ、水も滴るいい男”なんて職場のおっさんのノリで言ってしまいそうになり、慌てて口を塞ぐ。

 だめだめ、律輝はクールそうだからそういうノリ絶対ウザったいと思うタイプだ。口を慎んでも、隣人の色っぽい風呂上がりにどんどこ激しく心臓が脈打つ。


「何、大丈夫?」

「大丈夫、ちょっと動悸が……」

「体調悪い?」


 数メートルの距離でも色気に当てられて大変なのに、その距離を一気に縮めて後ろから覗き込んできたから私は露骨に動揺した。

 肌が綺麗でまつ毛が長い。圧巻の造形美に赤面不可避だった。
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