戦略的恋煩い
「違うの、超元気!」

「ならいいけど」


 頬が熱を持ったから、とっさにうつむいて精一杯返事する。律輝はすぐ興味を失ってキッチンに向かってくれたおかげで命拾いした。

 どうしよう。私、こんなイケメンと同じ部屋で一夜を過ごすなんて心臓持つかな。


「小夏、酒飲める?」


 深呼吸をして気持ちを整えていると、律輝の腕が目の前にぬっと現れて身構えた。だけどその手にビール缶を持っていることに気がついて心が踊る。

 おっ、それは私が大好きな“銀色のやつ”じゃないですか。


「うん、お酒好き。よくベランダで晩酌してるよ」

「ああ、だから窓開けたらたまに鼻歌聞こえるんだ」


 笑顔で受け取って固まった。一人飲みしてる時に陽気にフンフン歌ってた鼻歌、律輝に聞こえてたの!?


「えっ、聞こえてた!?ごめんなさい」

「楽しそうだなって俺も癒されたからいいよ」


 恥ずかしくて穴があったら入りたい。でも癒されたと笑う律輝は気を使ってるわけじゃなさそうだから、大目に見ておこう。


「今日本当は飲みに行く予定だったけど、台風でなくなったから付き合って」


 不意に近づいてきた律輝は、自分が持っていた缶をコツンと私の缶にぶつけた。雨風が激しく窓を打ち付ける中、宅飲みのお誘いに笑顔で頷いた。
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