戦略的恋煩い
 ソファに並んでテレビを見ながら晩酌に付き合う。酒豪らしい律輝の家の冷蔵庫には、数々のおつまみがストックしてあり宅飲みには最良だった。

 缶ビールを2本飲んだ後、梅酒に切り替えて塩辛を箸でちょこちょこつまんでは飲むを繰り返していた。


「小夏、彼氏は?」


 律輝は焼酎のロックを片手に、不意に質問を繰り出す。

 なんで彼氏のこと聞くんだろう。律輝は案外饒舌なくせに、あまり表情が変わらないから意図が読めない。


「いないよ。いたら男の家に上がり込まないと思う」

「いつから?」

「1年前から」

「そんなに?たまに男来てない?」

「たぶん兄じゃないかな。メガネのマッチョでしょ」

「そうそう、色黒のメガネのマッチョ」


 どうやら律輝、私に彼氏がいると思って訊いたらしい。しかし、律輝が彼氏と思っていた男は近くに住む3歳上の実兄だ。

 5年前まで青ざめた顔でひょろひょろだったけど、弱そうだからという理由でカツアゲされたのが悔しくて鍛え始めた。今ではボディビルの大会に出るほどハマってしまい、ちょくちょく筋肉を自慢しに私の家にやって来る。

 それを伝えると律輝は「なんだそれ」と惚れ惚れする笑みを浮かべて肩を震わせていた。

 この男、無表情と笑顔の差がありすぎていちいち心臓に悪い。
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