戦略的恋煩い
 唇に柔らかい感触がして、律輝の匂いがより近づいて鼻腔に広がった。律輝の伏せた目元から覗く長いまつ毛を至近距離で見て、キスされたんだと実感した。

 離れ際に情欲をかき立てるような小さなリップ音がして、私はようやく我に返った。


「何、してるの?」

「彼氏いないんだったら、もっと早く家に招いたのに」


 妖艶に微笑み、瞳に蠱惑的な光を宿して私の頬に手を伸ばす。火照った顔に触れる冷たい指先が心地いい。


「顔見知り程度の異性を、下心なしに家に上げると思う?」


 男の目をした律輝を見て、私は力なく笑った。キスされた時点でこれはきっと妄想だ。クールな律輝がこんな豹変するわけない。

 さては私、ご無沙汰すぎて夢として具現化してしまったな。


「やっ、だめ……」

「下着つけてないんだ」

「だって、雨で濡れたし、生地が分厚いからいいかなって」


 まどろみの中、律輝の冷たい指が服の中に入り込んで胸の膨らみに触れる。

 嫌だと思えないのは、きっと私の妄想だから。でも、隣人をそういった対象に見てしまったことに気が引ける。

 抵抗せずにいると、律輝は胸の先に触れた。指先で弄ぶように触られ、その手の中で突起部が硬くなっていくのが分かる。


「あっ……」

「かわいい声、ここ敏感なんだ」

「んぅ、やっ……」

「本当に嫌なら抵抗して」


 だけど抵抗なんてできるわけない。本当はその手で触れて欲しかった、夢でもいいから抱いて欲しかった。


「……できない」

「なんで?」

「人肌恋しい」

「じゃあ俺の好きにしていい?」


 はじめから拒否権なんてない問いかけに、劣情に染まった視線を添える。

 大丈夫、これは夢だから。妙にリアルな感覚の中、律輝の背中に手を回して身を委ねた。
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