戦略的恋煩い
 会社にはおじさんしか居ないから、隣にイケメンが住んでいるだけで日々の生活に彩りを感じられる。私は大手化学メーカー「徳光化成株式会社」の子会社、合成繊維を製造する会社の事務として、新卒から働いている。

 去年結婚して寿退社するつもりが、白紙になってずるずる仕事を続けてる感じ。いつ辞めようかと考えながら、先月28回目の誕生日を迎えてしまった。

 金さえあれば一刻も早く辞めたい。こう思うのは、様々な事象が要因している。

 第一に、セフレ7人とエンジョイしていた元カレが親会社で営業をしているからだ。もう会うことはないとしても、ヤツが平気な面でのうのうと働いていると考えるだけで虫唾が走る。

 それに今では疑いが晴れたとはいえ、横領事件の共犯者だと一時白い目で見られたことも根に持っている。もとはと言えば、元凶の同期が捕まった際に「青山さんは関係ないです。あの人のことは詮索しないで」など私をかばうような発言をしたせいだ。そんなこと言ったら逆に怪しまれるだろうがアホか。と当時私は怒り心頭だった。しかし当時の鬱憤を晴らしたくても、彼女は塀の中だから文句を言えない。

 同期が逮捕されたあたりで「呪われてるのか?」と思いお祓いに行った。ところが効力はなく、会社の階段から落ちて右足の腓骨を骨折して全治1か月と診断された。

 とことんツイてない私は案の定、大型台風が接近してるのに出勤になった。関連会社は休みなのに意味が分からない。などと心の内では文句を垂れながら、立派な社畜の私は電車に揺られている。

 運の悪い出来事が起こる日々の中、隣のイケメンに“お気をつけて”と声をかけてもらえたことは収穫だ。思い出すだけで元気が出る。

 明日もまた話せたらいいな、ひそかにそう願いながら会社に向かった。
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