戦略的恋煩い
「いい天気だし、出かける?」


 保留の意思を伝えると律輝は洗面所に戻ったから、私は服を着て荷物をまとめた。さあ帰ろうと立ち上がると、律輝はひょっこり洗面所から顔をのぞかせて帰る気だった私に笑いかけてきた。

 思わず二つ返事でいいよと言いそうになるほどの綺麗な笑顔。しかし、こんなイケメンと出かけるのにほぼすっぴんなのは自分が許せない。


「今から職場に鍵を取りに行こうと思ってる。昨日は泊めてくれてありがとう、助かりました」

「別にいいけど、車出そうか?」


 やんわりお別れを告げたつもりが引き止められた。


「定期あるから大丈夫です」

「なんで敬語?」

「律輝はキケンな匂いがする。近くにいたら酔っ払いそう」

「酔いが回ったらどうなるの?」

「……」


 断ってもだんまりを決め込んでも律輝は私の後を着いてきて、玄関に向かう私より先回りして通せんぼした。


「危険じゃないって証明するからドライブがてら一緒に行こう」


 いつの間にかその手には車の鍵を握られている。ひらひら手を振る律輝は私と出かける気満々らしい。何考えてるかさっぱり分からないけど、昨日は確かにお世話になったし、お出かけくらい付き合ってあげるかな。
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