戦略的恋煩い
「おはよう」

「……おはようございます」


 週明けの月曜日、早めに家を出たはずが律輝と鉢合わせてしまった。なんだか気まずくて、うつむきがちに挨拶をした。


「元気ない?」

「いや、大丈夫」


 意識しまくって気まずい私と違って、律輝はぐいぐい話しかけてくる。

 でもやっぱり表情は乏しい。こっちが通常運転なんだろうけど、クールなくせに口が達者、という水と油の性質を持ち合わせているせいで頭が混乱する。


「あ、そういえば連絡先教えて」


 ほら、一切の感情の機微を見せず連絡先とか求めてくるでしょ?

 初めて出会うタイプの男で、ある意味新鮮だけど、真意が見えなくてちょっと不安。


「なんでいまさら?」

「小夏と仲良くなれたのが嬉しくて舞い上がって忘れてたから」


 あまり笑わないからこそ、ほんの少し照れたように微笑むだけで一抹の不安が消し飛ぶ。舞い上がって忘れてたとか、かわいいかよ……。

 ちょろい私はその後エレベーターの中で速攻連絡先を教えてしまった。


「そういえばお兄さんどうだった?」


 私の連絡先を受け取った律輝は、スマホの画面を見ながら訊いてきた。


「入賞したけど全国大会は出場できないって。惜しかったんだよ、あと一歩だった」

「入賞できたことがまずすごいけど」

「あと、ボディビルに興味ある子がいるらしいって伝えたら、今度大会があった時チケットあげるって」


 一応兄に報告したことを伝えると、顔を上げてニヤリと笑った。初めて見る表情だった。


「言ってくれたんだ、優しいね」


 律輝の知らない表情を知る度、心臓が高鳴るのは意識している証拠だろう。朝から惑わされっぱなしで、この男にハマってしまうのも時間の問題かもしれないと思った。
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