戦略的恋煩い
 律輝がベッドに入ったのは23時30分。ためらったけど、律輝に「何もしないからおいで」と誘われたら断れなかった。

 正直、あの夜のことは何となくしか覚えていない。ただ、翌日の倦怠感からして、かなり激しく求められたのは分かった。まあ、明日はお互い仕事だし大丈夫だろう。

 狭いシングルのベッドに横になる。始めは律輝に後ろから腕を回されて端っこの方に横向きに寝ていたけど、だんだん体勢がきつくなってもぞもぞ動いて、いいポジションを探す。

 すると、少し後ろに下がった際に棒状の硬いものがおしりに当たった。私は驚いて露骨に体をよじらせた。


「あ、ごめん」


 律輝は一言謝って反対側を向く。あれだけ煽ったくせに、本当に手を出さないつもりらしい。

 優しさを理解すると同時に、寂しいと感じて抱かれたかったのだと気がついた。まったく女心は矛盾している。


「……したいの?」

「小夏が素面の時にしたいとは思ってた。だってあんなによがってたのに全然覚えてないって言ったから」


 そっと声をかけると、律輝は暗がりの中で寝返りを打って私と顔を合わせた。


「この前、どこから覚えてない?」

「えっ、と……」


キスの時点で妄想だと思ってました、なんて言えなくて言い淀む。すると律輝は布団を剥いで、私の体の上に覆い被さった。

 顔が近づいてきたと思うと、不意に唇を塞がれた。拒否できなくて呆然としていると、舌を絡ませ呼吸すら貪るようなキスを交わした。


「こんなキスしたのも覚えてない?」

「キスは、なんとなく……」


キスの後に、余韻のように広がるふわふわと漂う酩酊感。キスが気持ちいいと思ったのは、酔いの影響ではなかったのかと理解した。
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