戦略的恋煩い
また狭い洗面所に入ってきて、化粧をする私の姿を観察してるし。


「しっかりメイクしたら印象が違う」

「化粧濃いの嫌?」

「近寄りがたい気がする。慣れたら大丈夫」


 今日は時間がたっぷりあったからしっかりメイクしてみた。前日にはマツエク行ったし万全だ。

 こういう時、生粋の遊び人なら“綺麗だよ”なんて女子が求めるセリフで褒めるけど、褒めずに自分の感想を言うあたり、律輝は遊んではなさそう。


「よほど変じゃない限りは、メイクしたらかわいいか綺麗って言って欲しいな」


 でも、張り切ってメイクしたからお世辞でも綺麗だって言って欲しい。


「なるほど、アドバイスありがとう」


 すると律輝は感心したようにうなずいた。あえて言わないタイプかと思ったら違った?


「俺、そういう気遣いが下手で嫌われること多いから」

「律輝って意外と不器用?」

「性格云々の前に顔で選ばれてきたから」

「……ふーん」


 しかし理由を聞いて複雑な気持ちになった。女子に媚びる必要がないほどモテモテだったわけね。

 口をすぼめて眉を上げて、複雑な心境を表情で表した。すると律輝は「変な顔でかわいい」とほんのり笑ったように見えた。

 この顔がかわいいの?律輝って、かわいいと思うポイントが他の人よりズレてるのかも。
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