戦略的恋煩い
「なんで今日は美術館にしようと思ったの?」


 帰り道、なんとなく律輝に問いかけると律輝はいつも通り表情筋を動かさず口だけ開いた。


「美術品に対する反応で人となりがなんとなく分かるから」

「つまり私、審査されてたってこと?」

「さあ、どうだろう」


 恐る恐る尋ねると律輝の頬がほころび口角が上がった。急に笑うのはやめて欲しい。古来より人間は異性の“不意に見せる特別な表情”に弱いんだから。


「怖すぎる、私変なこと言ってなかったかな」

「一緒にいて楽しめたから大丈夫。むしろ価値観が似てて、小夏っておもしろい人間だなと思った。ますます興味深い」

「さ、左様でございますか」

「小夏は?」

「え?」

「小夏は今日俺と一緒にいてどうだった?」



 まじまじと見つめられ興味深いと言われて視線を逸らした。しかし名前を呼ばれ、自然と顔の位置を戻した。


「楽しかったけど緊張した」

「なんで?」

「美術品と並ぶと余計に律輝の魅力が際立って」

「……やっぱり俺の外見は好きなんだ」


 いかに緊張したかを説明すると律輝はぼそりと呟く。あれ、もしかして容姿だけで判断する嫌味な女だと思われた?それは釈明しないと。


「早く中身も好きになってね」


 ところが顔を上げると、律輝は微笑んで私の頬に指を滑らせる。忘れてた、律輝ってこういうことを自然に実行する男なんだよ。

 すぐに返答できず立ち止まった私を見て「あれ、固まってどうした?」なんて今度は頭を撫でて朗らかに笑う。

 ああもう、そのギャップやめてよ本当にほれちゃうって。
< 36 / 72 >

この作品をシェア

pagetop