戦略的恋煩い
「どこかに落としました?交番か管理会社に問い合わせてみましょうか」


 私の仕出かしたことなのに、心配してくれるなんて相変わらず優しい。でも、今は彼の親切心に感動している場合では無い。


「いえ、職場に置いてきたと思うんですけど、職場が台風の影響で17時には閉まってるんです……」

「もう17時過ぎてますね」


 すると濡れた髪をかきあげ、腕時計を見て哀れんだ目を向ける。

 最悪の状況に血の気が引いて指先は冷たいのに、誘うような色気にときめいて胸が熱い。混沌とした感情を携え、私は頭を抱えた。


「どうしよう……」


 マンションの管理会社も17時までの営業だし、鍵開けの業者はこれから風が強くなる予定なのに来れるわけない。じゃあホテルでも探す?この強風の中?タクシーさえ動いていればなんとかなるだろうか。

 考えうる限りの策を考え、雨風がさらに強くなる前にタクシーを呼ぼうと、バッグからスマホを取り出す。


「俺の部屋でいいなら避難します?」


 その時、普段と変わらない口調で言い渡された青天の霹靂。頭の片隅にもなかった提案をされ、私は驚きのあまりスマホを床に落としてしまった。
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