戦略的恋煩い
 律輝は嬉しそうに私を抱きしめて、肩に顔を埋めて動かない。


「付き合った記念に、何かしたいことある?」

「したいこと?」

「うん、律輝のしたいこと」


 あまりにも微動だしないから、話しかけると律輝はのそっと顔を上げた。その顔はなぜか能面みたいで、なぜか納得いかない顔をしていた。


「じゃあ、いい加減この先を見たい」

「あ……」


そしてその表情を保ったまま私の部屋の方角指さした。そういえば私は頻繁に律輝の部屋に上がるのに、私はキッチンから先に案内したことがなかった。


「俺、小夏の部屋が汚くても引かないって約束する」

「……えーっと」

「それとも他に理由がある?」

「その、見てもらったら分かると思う……」


 少女趣味の部屋に引かれたくないから言い出せなくて、この前は部屋が汚いからって断ったんだっけ。けど、付き合うことになったら腹括らないといけない。律輝はほとんど私にさらけ出してるわけだし。

 私はついに覚悟を決めて部屋の中に案内した。天蓋付きのベッドに並ぶ大きなぬいぐるみ、あわゆる姫系家具と呼ばれる、可愛らしい白い家具と、パステルカラーのピンクのレースカーテン。

 律輝は予想外だったのか、部屋の中心まで進んで立ちつくしている。


「ごめん、やっぱりアラサーでこんな部屋って引くよね」

「バカにすると思う?この俺が」


 キリッとした面持ちで即答で答えてくれたけど、無表情で突っ立っていられるのも困る。律輝の切れ長の目は、天蓋付きのベッドを真剣に見つめている。ベッドがどうしたのだろう。


「このベッド……エロいな」

「うわ、最低」

 近づいて律輝と同じ視点に立ってみると、律輝は大真面目な顔でとんでもないことを言い出した。思わず低い声で一言ツッコミを入れると、律輝は今まで見た中で一番楽しそうに笑った。

 やっぱり掴めない人だな、と思いながら私も釣られて笑ってしまった。
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