戦略的恋煩い
蠱惑的盲愛
 こうして本当にお隣さんが彼氏になってしまった。毎朝挨拶できるだけでも幸せだったのに、そんな相手と交際まで漕ぎ着けるとは思っていなかった。あの台風の日まで運気最悪だったけど、ここに来て急上昇しているのかもしれない。

 そんな今日は律輝とデート。土曜日だけど律輝が午前中だけ出勤になってしまったため、大人しく律輝の家で待っていた。付き合うと決めた次の日から合鍵を作って交換したから、いつでもお互いの家を行き来できる。

 手元にある律輝の家の鍵を見つめてニヤニヤしていると、玄関の鍵が開く音がした。


「あれ、小夏がいる。また家にゴキブリ出た?」


 事前に“律輝の家で待ってる”とメッセージを送ったけど見ていなかったらしく、私が部屋の中にいることに驚きと嬉しさが入り交じったような顔をする。

 嬉しそうな律輝。だけどヤツの名前を出されたことによって私はテンションがガタ落ちした。

「その名前を出さないで……」

「この前のトラウマになった?ごめんごめん」


 分かりやすくソファの上で体操座りをして項垂れる私。律輝は笑いながら頭をなでて視線を合わせて屈んだ。相変わらず綺麗なお顔だこと。笑ってるとなおさら顔の良さが際立つ。


「小夏が部屋にいたのは驚いた」

「律輝、スマホ見た?」

「見てない……何か送った?」


 律輝はカバンの中からスマホを取り出してようやく私からのメッセージに気がついたようだ。仕事中スマホ持ち歩かないのかな。


「あ、ごめん。全然見てなかった。俺、実はスマホでやり取りするのは苦手で」

「そうなんだ」


 仕事中はスマホを確認する時間がないのかと思ったら、そもそもスマホ上でやりとりするのが苦手らしい。私はマメな方だけど、返信せずに溜め込む人もいるし人それぞれだから無理に合わせなくていい。
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