戦略的恋煩い
「小夏、今日はどっちの家に泊まる?」


 デートの終わり際には、律輝が決まり文句のようにこう問いかけてくる。別れが近づくのが嫌だから、楽しかった気分を朝まで延長したいらしい。

 出会った時は冷静沈着な男だと思っていたのに、今となっては甘え上手な彼氏になってしまった。


「うーん、どうしようかな。人が来るんだよね」

「用事がある?お兄さんが家に来るとか?」

「冬はボディビルの大会あんまり無いから関係ないよ」

「じゃあ誰?」


 普段は律輝に振り回されっぱなしだからこういう時に仕返ししたくなる。用事なんてないのに断ろうとすると、律輝は眉を下げて悲しそうな顔をした。


「嘘、誰も来ないよ。大丈夫、少し意地悪してみたかっただけ」

「ふーん、そういうことするんだ」


 デート終わりの律輝は、散歩の終わりを嫌がる犬みたい。犬は犬でも大型犬だな、なんて考えていたら律輝が目を細めて表情を変えた。


「律輝いじけちゃった」

「小夏の部屋に泊まらせてくれたら許す」


 するとぷいっと私から目を背けて無言で歩き出す。今度は態度が打って変わってツンデレな猫みたいだ。

 犬系男子、猫系男子っていうけど、律輝はどっちつかずで、時と場合によって変わる。両方選べるなんてお得だ。


「分かった、いいよ。今日はウチにおいで」

「酒持ち込んでいい?」

「いいけど明日仕事だからそんなに飲まないよ」

「大丈夫、一杯だけ付き合ってくれたら」


 性格は変則的なものの、基本的に酒飲みのスタンスは変わらない。晩酌を交わして、気持ちよくほろ酔いになったところで、狭いシングルのベッドでくっついて寝るというのがいつものルーティンだった。

 冬は特に人肌恋しくなる。その気持ちは分かるけど、最近は週3で泊まってるから意外と律輝はさみしがり屋なのかもしれない。
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