戦略的恋煩い
「律輝って、ギャップすごいよね」

「そう?」


 情事の後は、いつも冷たい律輝の指先があたたまっている。ぬくもりを逃がさないように手を繋いだ。


「うん、惑わされてばっかり」

「小夏はギャップないよね」

「否定はしない」

「でも欲しいリアクションくれるから、そういうとこ好き」


 好きな人とベッドに横になって、ぬくもりを分かち合えるだけで幸せなのに、律輝は誠実に言葉にしてくれる。私の要望を律儀に守ってくれているのだと思うと胸がぎゅんっと苦しくなって動悸が激しくなった。


「私も好きぃ……」

「はは、ちょろっ」


 顔をしわくちゃにして応答すると、律輝は私の頬を撫でながらちょろい、だなんて言い出した。自分でも単純だと思う。でも、バカにしたってその幸せそうな笑顔じゃ罵られた気分にはなれない。

「俺以外に惑わされちゃだめだよ」


 余裕ありげに見えて、もう微塵も想っていない元彼に牽制かける律輝がかわいい。惑わされるわけがない。私の心は辻律輝という男にとっくの昔に支配されている。

 律輝のことでいくら悩んで気に病んでのだと思っているのだろう。律輝が知らないだけで私は恋の病に冒されている状態だ。

 迷い迷って、もっと深く愛されたいと希こいねがって恋煩い。

 もう私は、律輝によほど酷いことをされても嫌いになれないくらい堕ちてしまっている。未来への莫大な不安を打ち消すほど、深く愛している。

 同棲だとか結婚だとか、私の思い描く未来が律輝ありきのものになってしまった。保証なんてないのに、期待してしまうのは愚かだろうか。鬱屈とした考えの中、律輝のぬくもりに包まれて眠った夜は、夢も見ないほど熟睡できた。
< 61 / 72 >

この作品をシェア

pagetop