戦略的恋煩い
 クリスマス目前の金曜日。今年は24日が土曜日だから、予定を合わせずにデートできることになった。土日で良かった。毎年職場のおじさんたちに“青山さんクリスマスは有給取らなくていいの?”って聞かれて辟易してたから。

 去年はもちろん休みを取るわけがなく仕事をして、夜は元彼を忘れられずに飲んだくれて荒んだクリスマスを送ったけど、今年は楽しめそうだ。


「小夏、久しぶり」


 柄になく鼻歌なんか歌いながら帰宅しようとしていると、会社の敷地内で聞き覚えのあるよく通る声が聞こえた。日の落ちかけた暗がりの中、前から人が来ていることに気がついて顔を上げた。

 スーツを着た男が近づいてくる。声から予測はついていたけどそれが誰であるか把握した途端、真冬なのに脂汗をかくほど狼狽えた。

 そこにいたのは──すべての災厄の始まり、因縁の元彼だった。
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