戦略的恋煩い
 ようやく律輝を信頼して前に踏み出そうとした時に限って現れるなんて。ああ、やっぱり来年を待たずして厄祓い行けばよかった。きっと、コイツとの厄を落としきれていなかったんだ。


「なんか綺麗になった?」

「……」

「無視はやめろって」


 立ちはだかるヤツを避けて帰路につく。

 無視するに決まってんでしょ。元彼はもはや、私の中ではゴキブリと同等レベルで嫌いなんだから。罵らずに無視するだけいいと思え!

 などと強気で鼻をふんと鳴らしてすれ違おうとしたら手首を掴まれた。まさか触られるとは思わず、驚いて硬直する。


「せっかく会いに来てやったのに」

「離して、人呼びますよ」

「ボディビルダーの彼氏できたってマジ?お前そういうのいける口なんだ」


 他人の意見に耳を傾けず、自分の言いたいことだけ口に出す性格は変わってないらしい。

 ボディビルダーの彼氏って誰情報よ。ていうか、最悪な別れ方した元カノによく次の彼氏の話題なんて口に出せたな。

 デリカシーない上に検討外れ。当時、そんな重大な欠点すら見て見ぬふりをして盲目的にヤツが好きだったことを思い出しため息をついた。
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