戦略的恋煩い
「それは兄ですけど」

「じゃあ今フリー?」

「彼氏はいます」

「強がるなって、どうせいないんだろ。俺も明日ヒマだから良かったら食事でも……」

「行くわけないでしょ!バッカじゃないの!?」


 浮気が発覚した当時、別れ話もさせてもらえず音信不通になったくせに、なんて虫のいい野郎だ。1年と3か月越しの溜まりに溜まった怒りを罵声にしてぶちまけると、ヤツは驚いて手首を掴んでいた手を離して怯んだ。


「いや、実は事情があって……俺、取引先の社長の娘と無理やり結婚させられそうになってんだよ……お前と復縁したってことにしてお見合いから逃げたいから明日だけ付き合ってくれ!」


 元カレがここまで必死な事情を聞いて因果応報ってあるんだと妙に腑に落ちた。女を泣かせてきた男が最終的に女に泣かされるのか。

 大人げないからざまあみろ、という言葉を口に出すのは控えたけど滑稽で笑えた。よかった、ちゃんと天誅下ってたみたい。


「7股した時みたいにマッチングアプリで適当な女の子引っかければいいじゃん。私はもう関係ないから頑張って」

「なあ、頼むって。金はやるから」

「私、今の彼氏と結婚する予定なの。だからあんたの付け入る隙なんてないから二度と話しかけないで!」

「そ、そんなに大声だすなよ誰か来たらどうすんだよ」

「さっさと退散してほしいから声を張ってるんですけど?今後また私に近づいてきたら警察呼ぶから」


 スマホから律輝とのツーショットを探し見せつけながら、鼻息荒く言い放つ。ヤツは「怖っ……話しかけただけじゃん。お前性格悪くなったな」と負け犬よろしくボソボソと呟いて私に背を向けた。

 勝った、完全勝利だ。私は武者震いする手をぐっと握り、その手を高く突き上げた。
< 64 / 72 >

この作品をシェア

pagetop