戦略的恋煩い
 律輝はすんっと澄ました顔をしていて通常運転だ。


「いつ入籍する?」

「待って、話を聞いて」

「俺はいつでもいいから小夏が決めて」

「律輝、ステイ!」


 律輝はこういう時冗談は言わない。分かっていても入籍というワードがその口から飛び出て驚いて声を張った。

 冷静沈着な律輝は時折、暴走列車になる。そこまで私のことが好きなのかと自惚れるけど、今はその場合ではない。私はやっと落ち着いた律輝に事の顛末を説明した。


「……へえ、元カレが職場に?」

「でも会社の人が出禁にしてくれるって」


 律輝は愕然とした表情の中に怒りを滲ませて聞き返す。私はすかさず、先程メッセージを送ってきた上司とのやり取りを見せた。

“元カレがしつこいなら本社に伝えて出禁にしてもらうよ”

 律輝が動かずとも、なんだかんだ上司は優しいから対応してくれる。だから心配しなくていいと伝えたけど、律輝は納得のいかない様子だった。
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