戦略的恋煩い
「ごめん……ちょっと一旦心の整理をさせてきてもらってもいい?10分くらいで戻るから」

「小夏、待って」


 ひとりになりたくても、律輝は後ろから抱きしめて私を離してくれない。


「大丈夫、律輝のせいじゃないから。少しひとりで考える時間が欲しいだけ」

「ひとりになったら小夏泣きそうだから、離したくない」

「なんでそういうところだけ敏感なのかな……」


 物分りのいい女でいたいから一旦距離を置いて冷静になろうとしたのに。制御しきれない感情に突き動かされて、本音が漏れてしまう。

 今だって、なんで泣きそうなのか分かってないくせに。律輝はきっと、私が大阪についていくって即答すると思ってたんだろう。それなのに私が離れていく素振りを見せたから慌てて抱きしめたのだ。

 結局私は律輝を信用しきれていない。迷うのはその証拠だ。


「小夏、俺の話聞いて」


すると律輝は私の体を反転させて向かい合った。恐る恐る顔を上げると、律輝は優しく微笑んでいた。
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