戦略的恋煩い
「俺、小夏と付き合う上で目標にしてたことがあるんだけど」


 律輝は世間話をするみたいに私に話しかけてくる。だけど私の肩を掴む手は少し力が入っていた。


「目標?」

「俺に首ったけになってもらおう、って」

「なんで?」


 肩を掴んでいた手がだんだん下方に移動し、最終的に私の手を握った。緊張しているのか、落ち着きがないように見えた。


「自分が転勤になるって分かってたから、そうなったら何がなんでも小夏を連れていきたかった」


 律輝は私の手を握ったり離したりして、明らかに緊張している。始めて見る姿に私の方が動揺した。

 それほど私の機嫌が損ねたのが怖い?それともよほど悪どいことを考えていたのだろうか。


「だったら、俺がいないとだめになるくらい、盲目的に好きにさせたらいいかなって」


 ついに律輝の口から語られた本心。意図的に依存させたかったのだと判明し、想像してたよりかわいらしい野望だと拍子抜けした。

 でも、今の発言によって、律輝の不可思議な言動のすべてに辻褄が合った。早く好きになれと急かすことも、そういう思惑があったのかと納得した。

 要は、計画的に恋煩いするように仕向けたってことか。
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