戦略的恋煩い
「俺に夢中にさせるはずが、実際は俺の方が気持ちが大きいから大失敗」

「それは違うよ、私だって律輝のこと好きだけど、婚約直前に元彼にされた事がトラウマで臆病になってるだけ。本当は律輝とずっと一緒にいたい」

「でも、小夏が不審がってるの事実だから全部手の内明かす。俺は小夏を手放したくなかっただけ。それだけだからもう探りを入れなくていいよ」


 律輝は幻滅されたと勘違いして、諦めモードに入ってしまった。私はむしろ安心したのに。やっぱり律輝は律輝だったと、溜飲が下がってこれでようやく身も心も預けられると確信できたのに。

 どうしよう。真面目に説き伏せたところで律輝はどんどんドツボにはまっていく気がする。だったら、律輝がしてきたことと同様に、惑わせてしまえばいい。


「怖っ……そんなこと考えてたんだ」


 表情を変えて、からかうように笑いかける。律輝はごめんと言いかけたけど、私の顔を見ると徐々に片方の口角を上げた。


「律輝って真面目そうに見えて、意外と抜け目がなくて計算高いんだね」


 本心を聞いてもダメージを受けておらず、むしろ嬉々とした様子の私を見て、律輝は態度を変えた。


「人聞き悪いな、策略家と言って」

「じゃあ、私はまんまと策略家の戦略にハマったってこと?」

「さっきの話を聞いても、俺について来てくれる決断をするならそういうこと」

「あれ、もしかして弱気になってる?」


 額面通り受け取って欲しいところだけど、いつも積極的な律輝が控えめだから首を傾げた。

 律輝は返答せず、しゅんとうなだれて子犬みたい。結局私は、律輝のどんな姿も愛おしいのだ。嫌いになるわけがない。


「私はむしろ、律輝の人間らしいところを知れて安心したよ」


言葉にするのは少し気恥しいけど安心させてあげよう。私は律輝の背中に手を回して抱きついた。
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