戦略的恋煩い
 真面目なタイプと思ったら意外と面白くて仲良くなれそうな気がする。やっと人となりが分かって大暴れだった心臓も落ち着いてきた。

 ところが突風が吹き荒れて窓がガタガタ揺れ、ノミの心臓の私は大袈裟に「ひえっ」と色気のない声を上げて心拍数がまた上がった。


「本格的に風強くなってきましたね。沖縄や九州は停電したって聞きますし……そうなる前に風呂入ります?」

「らしいですね、今回の台風は結構被害大きいとか……ん?風呂?」


 窓に近づいて外を眺める律輝さんに同調したら、何やら聞き間違えた気がする。


「ずぶ濡れになって気持ち悪いでしょうから。俺ので良かったら服お貸しします」

「いえ、大丈夫です。そこまでしていただくわけにはいきません!」


 聞き間違いではなかったらしく、シャワーまで貸してくれるつもりだそうだ。いい人すぎる、たかが隣人にそこまで尽くしてくれるなんて。


「風邪引きますよ。あと個人的に雨に濡れた服のままでいられるのが嫌です」

「あ、分かりました……」


 断ろうとしたけど、そういう理由なら嫌ですとは面と向かって言えない。私も逆の立場ならシャワー浴びて欲しいと思うかも。

 イケメンに迷惑をかけてしまうことになるが仕方ない。私は「お風呂お借りします」と声をかけて律輝さんにタオルと服を用意してもらった。
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