幼馴染みは御曹司+上司様
「……俺だよ、恭平。橘《たちばな》 恭平《きょうへい》……」

「……た、ちば……な……」

わたしは青年(そのひと)が紡いだ言葉を一音《いちおん》、一音(いちおん)ゆっくりと口にしてゆく……。

そうすることで、何かしらの手がかりをつかれるかもしれない……と、思ったんだ……。

「……きょ……う……へ、い……」

「……莉央……」

柔らかな微笑みを浮かべ、優しく名前を呼ばれた。

「……っ!!」

わたしは息を呑む。

ふっ……と、幼い頃の記憶が一気に脳裏を駆け巡った……。

「きょっ、恭くんっ!?」

青年(そのひと)ー恭くんが口許を緩めて嬉しそうにコクリと、頷く。

「よーやく、気づいたかっ!」

……うそ……。
ホント、に……?

わたしは目をまんまるくして恭くんを見つめた……。

しっ、信じられない……。
……こんな……こと……って……。

「気づくの……遅すぎっ!!」

「だっ……だって……」

「小さい頃から……ずっと一緒にいたんだから、分かりそうなものだけど、な……」

「……小学二年生……以来、だよね…? わっ、分かるわけ……ないじゃないっ……!」

「……に、しても……だな……。全く分からない……って、ことはないだろ?」

「うっ……」

言葉に詰まる……。

「それはあまりにもヒドくないか?」

「……ホントに……分かんなかったんだもん……」

わたしは少し膨れっ面になりながら、ボソリ……と呟いた……。

十四年だよっ!?

十四年っ!!

分かるわけないじゃない……。

小学五年生(あのころ)の恭くんとは、違うもの……。
背の高さも顔つきも声も……
全然、違ってるじゃない……。

気づくわけ……ない……。
分かんないよ……。

ずるい、ずるいよっ……。
恭くん……。

「そっか?」

恭くんがあっけらかんと言った。

「俺はすぐに莉央だって……分かったけど?」

ニッと、口許を緩めて笑った。

ドキッ……。

鼓動が高鳴る。

「……っ……」

あっ……。
一緒、だ……。

屈託ない無邪気な笑顔。

恭くんだーー……。
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