幼馴染みは御曹司+上司様

回想 朝からバタバタ……

えっ……と……。

そういえば……出勤するなり、バタバタだったな~。

開口一番に大事な企画書のコピーを次長から頼まれた。

入社して最初に覚えた仕事ー書類のコピーはもうお手のもの!

手慣れた手つきで用紙をセットして、スタートボタンをポンッと、押した。

……。

うんとも、すんとも言わないコピー機……。

ん?
なんで……?

えっと……。

電源入ってる。
原本と用紙、サイズ、部数……設定はオッケー。
インクも、ある……。

コピー機の前で私は心の中で呟きながら、一つ、一つ指差しして確認してゆく……。

わたしが分かる範囲では何も問題がなさそうに見えるけど……他に……何か……ある?

うーん……。

コピー機の前で1人……頭を抱えていると……同期の本村(もとむら) ななちゃんがさらりと言った。

「あぁ……それっ、壊れてんだよね」

「えっ……」

「昨日から……。莉央は直帰したから知らないのも無理ないか……。夕方、壊れたんだよね~。全然、動かないの!」

ななちゃんがへらっと、笑った。

「最近、なーんか……調子悪いって、先輩達が言ってたのは聞いてたけど……まさか……今、壊れる!? って…感じ? 機械に詳しい先輩にも見てもらったけど……駄目だったのよね……。その先輩が次長に報告するって、言ってたから……知ってるはずだよ」

チラッ……。

わたしは部屋の奥にある次長のデスクに目をやる。

電話中だった……。

じっ、次長~。

ま、まさか。
まさか……とは、思いますけど……わたしにコピーを頼んだ……と、いうことは……コピー機が壊れていることは完全に忘れてる……って、こと……ですよね……?

「……どっ、どうしよう……」

サーッと、血の気が引いてゆく……。

「とりあえず……他の部署に言って、コピー機使わせてもらうしかないかな……。修理の人が来るにしても……いつになるか……それまで待ってらんないでしょ?」

「うっ、うん……」

「頑張って!」

ポンポン。

私の方を軽く叩いて、ななちゃんは自分のデスクへと帰っていった。

ーーよし、悩んでたって仕方ないよね!

わたしは軽く息を吐いて、他の部署へコピーをさせてもらうことを次長に一言伝えようと、次長のデスクに向かって歩き出そうとしたした瞬間……。

「きっ、君っ!」

鋭い声が耳に届いた……。

「ーーっ!?」

声のした方に視線を向けると……いつの間にか、次長が目の前にいて……私は声にならぬ声をあげてしまった……。

いっ、いつの間にっ!?

次長は電話を切るなり……足早にわたしの元へ来ていたのだった。

「なーに、奇声を上げて! ビックリしたよ」

「すっ…すいません……」

「ーーでっ、出来たかねっ!?」

「……?」

きょとんとしてしまった……。

「コピーだよ、コピー!! さっき、頼んだ企画書のコピーは出来たかねと、聞いているんのだよ」

「あっ、の……まだ……」

「何をしてるんだね、一体っ! コピーなんてものはさっさと済ませてもらわないと困るんだがねっ!! これだから、若い者はっ……」

あぁ……この様子だと完全にコピー機壊れてるの、忘れてる……。
サイアクだ……。

「……すいません……」

次長の嫌味にわたしは理不尽さを感じつつ、すぐさま頭を下げた。

頭を下げながら……
でも……言わなきゃいけないよね?
言っておかなきゃ……困るよね……?

と、思って……わたしは勇気を振り絞って恐る恐る口を開いた…。

「……じっ、次長……」

「何だね?」

「こっ、コピー機が壊れて……まして……」

「はっ?」

次長が間の抜けた顔をする。

言葉使いがおかしかった……?
それとも、声が小さくて、聞こえなかった……?

次長の表情と態度に戸惑いながらもわたしは言葉を繰り返す。

「……ですから、コピー機が……壊れて……」

「はぁーー!?」

次長の声が部屋内に響き渡ったのは、言うまでもないーー……。
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