幼馴染みは御曹司+上司様
「……と、いうことで……クビにして下さい」 

「「えっ」」

今度は次長とわたし……同時に同じ言葉を発していた……。

わたしと次長の言動に青年が明らかに不快な表情を浮かべて、ハッキリと言葉を口にした。

「使えない社員を雇っておくメリットがどこにありますか?」

「……っ!」

……使えない……。

グサッ……。

そっ、そんな……ハッキリ、と……。
しかも……わたしのことを見つめながら……。

青年(そのひと)の冷ややかな瞳がさらに胸に突き刺さる……。

「……そうは、思いませんか? 次長(・・)

「……わっ、私の、口……からは……」

「きちんと言ってあげるべきだ。会社のため……その女性社員のためにも……」

「そっ、それは……」

たどたどしく冷や汗を拭きながら一生懸命、低姿勢で次長は失礼のないように……言葉を選びながら紡ぐ……。

「なっ、んと……もう、し……ま……すか……」

「……出来ませんよね」

「……っ!」

「意地悪なことを申しましたね……。次長が勝手にいち社員のクビを切るなんて……出来ませんよね」

青年(そのひと)は机の上に置いた私物を手に取り、帰り支度を始めた。

「今日のところは……これで帰らせて頂きます」

「……っ!」

「社に戻って取り引きのこと……いえ、お互いの……会社の今後について……考えさせて頂きます」

ガタッ……。

椅子から立ち上がる音がした。

あたしはショックが大きすぎて……何も考えれない状態だった……。

頭の中は真っ白……。
顔は青ざめ、視線を床へと落としたまま……。

コツ、コツ……。

次第に耳に届く足音が大きくなる。

青年(そのひと)があたしの後ろにある出入り口に向かって、歩いてきているのが分かった。

「あっ、い、やっ……ちょっ、とっ!」

わたしの近くで次長が慌て、ふためいている気配を微かに感じた……。

わたしのクビのこと。
会社の今後のこと。
そして……次長(じぶん)の置かれている状況……。

頭の中で損得勘定が働いているのだと、思った。

当然だ……。

会社にとって……と、いえば聞こえがいいけど……恐らくそうではないはず……。
次長にとって一番の最善策を模索している様子だった。

そうしなければ……次長自身の身が危うくなってしまい……最悪、クビを宣告されかねない……。
その状況にだけは何がなんでも避けたいはず……。

「わっ、分かりましたっ!」

青年(そのひと)があたしの前を横切る寸前……次長が叫んだ。

「賢明な判断、感謝します」

「ーっ」

次長が勢いよく(あたま)を下げた。

……っ……。

人間の汚い……。
ある意味……人間らしい賢い生き方を目の当たりにして、身を持って学んだ……。
そんな気がする……。

「では、帰るついでに……外に連れて行きますね。この方の荷物を至急、持ってきて頂けませんか?」

えっ……!!

朝比奈 莉央。

社会人一年目。

一ヶ月も経たぬうちに突然……会社をクビになりましたーー……。
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