都合よく扱われるくらいなら家を出ます!~可愛すぎる弟のために奔走していたら大逆転していました~

プロローグ

 昔昔。地球という星の日(に)本(ほん)という国に、とある女性が暮らしていました。親しい人がいる訳でなく、ましてや恋人もおらず、当然結婚もしていません。
 それでも、離れて暮らす両親と、ネットで見る余(よ)所(そ)様の猫ちゃんに癒(い)やされつつ、平穏な生活を送っていました。
 それが、この世界に生まれる前の私。人には絶対に言えない、私だけの秘密だ。サーヤ・イエンシラ。それが今の私の名前。
 この前世の記憶を思い出したのは、今世の私が四歳くらいの頃。それまではぼんやり見えていた周囲が、ある日いきなりクリアに見えた驚きは、今でも覚えている。
 あまりに驚きすぎて、泣き叫んだくらい。お父様もお母様も、あの時は慌ててらっしゃったわ。
 今世、セネリア王国に生まれた私の家は、フェールナー家という伯爵位の家。貴族よ、貴族。しかも、私が六歳の時には、天使のように可愛らしい弟まで生まれるというおまけ付き。
 弟のウードが生まれた時、お父様ったら嬉(うれ)しすぎてはしゃいで危うく二階のバルコニーから落ちるところだったのを覚えている。後でお母様にこっぴどく叱られて、小さくなった姿も。
 その後も、赤ん坊のウードをしょっちゅう抱き上げてあやしていた。今思い出しても、愛情深い人だったと思う。お母様との仲もよかったし。
 うちの弟は本当に可愛い。お父様とお母様のいいとこ取りってやつだわ。比べて、私は平々凡々って感じ。お父様とお母様の微妙なところを寄せ集めたようなものかしら。
 でもいいの。我が家は貴族なんだから。これで私の将来も安(あん)泰(たい)よ。何せ、何不自由なく生活していけるのだから。……そう、思っていたのに。
 思いもよらない事というのは、この世界にも普通に起こるのねえ。
 まず、八年前にお父様が亡くなった。死因は怪我。詳しくは教えてもらえなかったけれど、相当酷(ひど)い怪我だったらしい。遠くの地で亡くなって、王都の邸まで遺体が運ばれてきたのよ。
 私は八歳だったから色々覚えているけれど、弟のウードはその時二歳。もう、お父様の事は覚えていないかもしれないわね。
 お父様が亡くなった後、お母様も体を壊して寝付くようになってしまった。それからたった二年で、お母様はお父様の元へ旅立ってしまわれたわ。
 思えば、お母様が寝付いた頃から、我が家の財政は段々傾き始めていたんじゃないかしら。だって、家の中が少しずつ変わったのは、その頃だもの。
 最初の変化は、家に代々伝わる肖像画がなくなった事かしら。お母様に聞いても、「余所に預けているの」としか仰らないし。
 その後も、花瓶や銀器、お母様のドレスやお父様が残した服、それに装飾品類。男性でも、宝石は使うから、お父様もお持ちだったのよ。
 それらも、いつの間にか家から消えていた。私やウードの服もね。子供サイズでも布地も仕立てもいいから、古着で売ってもいいお値段になったんじゃないかしら。
 最終的には、絨(じゅう)毯(たん)や家具まで安物に入れ替わったのには、驚いた。そこまでいくと、もうお母様に聞く事も出来なくて……。
 多分、お父様が亡くなったから、家の収入がなくなったんだと思う。だから、家にあるものをお金に換えていたんじゃないかしら。
 我が家は伯爵家と言っても領地を持っている訳ではないし、王宮で役職をいただいている訳でもない。正直、どういう収入があったのか謎な家だ。
 でも、男であるお父様は、何かをして報酬を得ていたと思うのよね。そのお父様が亡くなったから、我が家の財政が傾いたんじゃないかしら。まあ、世の中貧乏貴族もいるから、うちもそうだったのかも。
 お母様は、亡くなる少し前に、私だけを枕元に呼んである物をくれた。
 それが、今も私の首にかかっているペンダント。花のつぼみを象(かたど)ったもので、とっても綺(き)麗(れい)なの。
 お母様は、私にこれを渡して仰った。
『ウードをお願いね。姉弟、仲良く暮らしてちょうだい。何事にも、負けずに、気を強く持つのよ』
『はい!! お母様! 私、神様とお母様に誓います!』
 私の返答に、お母様は微(ほほ)笑(え)んでらしたっけ。お母様、あの時の誓い、私は忘れた事、ありません。これから先も、ずっと護り続けます。
< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop