麗しい婚約者様。私を捨ててくださってありがとう!
2 図々しいセリーナ
「まぁ、セリーナ様じゃないの。そう言えば、学園を卒業したらすぐにライン・ワイマーク伯爵に嫁ぐとおっしゃっていたわよね?」
セリーナはアリッサの言葉にホロリと涙を流し、サミーの隣の席にストンと腰をおろした。アリッサは思わず眉をひそめた。
(なぜ、そこに座るの? セリーナ様がサミー様の横に座るのはおかしいでしょう? しかも、あんなに椅子をサミー様に近づけて。サミー様もセリーナ様に注意をしてくれればいいのに・・・・・・)
アリッサの胸に、もやもやとした感情が渦巻き始めた。自分の誕生日に他の女性に嫉妬する自分が惨めだ、と思いながらも、負の感情が抑えられない。
(サミー様がセリーナ様に笑いかけている・・・・・・なぜ、嬉しそうな眼差しをセリーナ様に向けるの? 今は私だけを見つめてほしいのに・・・・・・私はセリーナ様に比べて、ごく普通の容姿だわ。髪や瞳もゴドルフィン王国ではよく見かける茶色だし、顔立ちだって特に美人でも可愛くもない。もっと私が美しかったら、サミー様は私だけを見つめてくださるの?)
セリーナの髪は緩やかにカールされており、ピンクがかった金髪が人目を引く。愛らしい顔立ちに蜂蜜色の瞳は、どこか無邪気で無垢な印象を与えた。小柄な体型でありながら豊かなバストをもつセリーナは、愛らしさと少しばかりの挑発的な魅力を同時に持ち合わせていたのである。
しかし、アリッサは自分の容姿を過小評価しすぎていた。実際のところ、アリッサの顔立ちは整っており、清楚な美しさが備わっていた。
髪や瞳もこの国では一番多い茶色だったが、真っ直ぐで艶々と輝く髪は、光に当たるたび柔らかな光沢を放っていた。それは風に吹かれると、まるで絹糸のようにさらさらと揺れる。瞳には温かさと穏やかさを湛え、誰もが自然と引き寄せられる優しい光を宿していた。
その微笑みは見る者の心を和ませ、特に子供たちや動物たちがアリッサに懐くのは、その笑顔に込められた純粋な愛情のせいだった。しかし、充分魅力的な女性であるにもかかわらず、アリッサ自身はそのことにまったく気づいていなかった。ギャロウェイ伯爵家の人々がアリッサを、いまひとつ華やかさに欠ける存在として扱っていた弊害である。
「実はね、ライン様に浮気されましたのよ。ですから、こちらから婚約破棄したのですわ」
セリーナは高級レストランで誕生日を祝うアリッサとサミーに、およそふさわしくない話題を展開しようとするのだった。
(セリーナ様には遠慮という概念がないの? 私はサミー様と二人だけのお誕生日を楽しんでいるのに)
「ごめんなさいね、セリーナ様。そのお話は後日にしませんこと? 早くご自分の席にへお戻りにならないと、一緒に食事を楽しみに来ている方に失礼でしょう?」
「あぁ、確かにそうだね。連れの方を待たせてはいけないよ。料理だって、冷めてしまうだろう?」
サミーもセリーナに席へ戻ることを促したことで、アリッサはホッと胸をなでおろした。ところが、セリーナからの返答はアリッサが呆れてしまうものだった。
「あぁ、気にしないでくださいませ。連れはいないわ」
「え? まさか、ここに一人で食事をしに来たと言うの?」
「まさか、そんなわけないじゃない。通りからアリッサ様の姿が見えたから、嬉しくて来てしまったのよ。だから、心配しないで」
「食事をしにきたわけでもないのに、勝手に店内に入るなんてまずいわよ。早く、レストランから出て行ったほうがいいわ。ここは予約をした人しか入れないお店なのよ」
(信じられない。食事をしにきたわけでもないのに、外から知り合いを見かけただけで、予約しなければ食事ができないようなレストランに勝手に入り込むなんて・・・・・・)
不愉快に感じながらもアリッサがセリーナを諭していると、給仕が首を傾げながらやって来た。彼は上質な布地で仕立てられたシンプルでありながら、品のある制服を身にまとっていた。背筋をぴんと伸ばし静かに足を運びながら、客たちの周囲に気配を感じさせることなく、サービスを提供するのが彼らの仕事である。
「いかがされましたか? おや、こちらはお連れ様ですか? 確か、予約は二名様でしたよね? この後は紅茶とデザートのお祝いのケーキですが、お持ちしてよろしいでしょうか?」
給仕はやんわりと予約をしていないセリーナに出て行くよう促したのだが、暗に隠された意図を読み取る力はセリーナにはないようだった。
「まぁ、お祝いのケーキ? あぁ、そう言えば、今日はアリッサ様のお誕生日だったわね。私もお祝いしてあげるわ。すみません、飛び入り参加ってできないかしら? アリッサ様とはとても親しい友人なのよ。紅茶だけでも出してくださらない? 一緒にお祝いしてあげたいもの」
セリーナはフリルとレースがふんだんにあしらわれたドレスの裾を軽やかに揺らしながら、甘えるように給仕に微笑んだ。彼女のピンクがかった金髪にひけを取らないほど目を引く濃いピンクのドレスは、セリーナならではの華やかさと個性を放っていた。
(嘘でしょう? なんて、恥ずかしいことをおっしゃるの? 私なら、とても言えない。それに、悪いけれど、セリーナ様にお祝いしてもらいたいとは思っていないわ)
「セリーナ様、無理を言わないで。レストランに迷惑をかけてしまうわ。後日、ギャロウェイ伯爵家にご招待するわ。その時にゆっくりお話しを聞かせてちょうだい」
「えっ? 嫌よ。今、話したいのだもの。それに、ここにはサミー卿もいるし、ちょうどいいじゃない? 人数の多い方が話しやすいし、男性の意見も聞いてみたかったのよ。給仕さん、こんな時はサービスで紅茶くらい持ってくるのが常識だわ」
(とんでもない常識を持っているのね。こちらが恥ずかしくなるわ。なぜ、このタイミングでセリーナ様に見つかってしまったのかしら)
アリッサは自分の運の悪さを呪った。もう少し急いで食事を済ませレストランを出ていれば、通りを歩くセリーナからは見つからなかったはずだ。だが、会いたくない人ほど、最も会いたくない瞬間に出くわしてしまうものなのかもしれない。
「かしこまりました。紅茶を三人分お持ちしましょう。せっかくのお誕生日ですからね。当店のサービスとさせていただきます。どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」
セリーナにはなにを言っても無駄だと判断した給仕の男性が、銀のトレイに乗せられた紅茶とケーキを持ってきた。ティーカップを音も立てずに置くその動作は、まるで舞台の一部のように優雅だった。微笑を浮かべつつも決して過度に主張しないその立ち振る舞いは、空間に落ち着いた気品を漂わせる。
しかし、アリッサの心はどこかざわつき、その優雅なレストランの雰囲気を心から楽しむことができなかった。原因は、サミーが自分のケーキをセリーナに譲ったからだ。
(どうしてサミー様はセリーナ様にケーキをあげるの? これは、私たち二人で楽しむためのものでしょう?)
アリッサの頭の中は疑問でいっぱいだった。小ぶりなホールケーキを二等分したものが、アリッサとサミーの前に丁寧に置かれたというのに、サミーは自分のぶんを何のためらいもなくセリーナの前に移動させたのだ。
「まぁ、サミー様はお優しいのね。ありがとうございます。アリッサ様は、このような優しい男性が婚約者でいいわね。とても羨ましいわ。それに比べてライン様は・・・・・・」
ワイマーク伯爵の悪口を次々と並べ立てるセリーナに、サミーはうなずきながら聞き入っていた。
(そんなに熱心に聞いてあげる必要はあるの? 今日は私が主役なのよ。婚約者のサミー様に、私を一番に考えてほしいと思うのは我が儘なの?)
サミーはアリッサの表情の変化に気づくこともなく、セリーナに励ますような言葉をかける。
「それは酷い男だね。そんな男とは別れて正解だよ。ある意味、君は新しい道を進むことができるのだから、これを新しい人生への第一歩だと思って、前向きに考えたほうがいい」
「まぁ、素敵なことをおっしゃってくださいましたわ。だとしたら、今この瞬間が、私の新たなお誕生日かもしれませんわね。これから、私は生まれ変わりますわ!」
「そうだよ、その心意気だよ。お誕生日、おめでとう!」
「ありがとうございます! 嬉しい。うわぁー、このケーキはとても美味しいわ。私の新しい門出にぴったりです」
なぜかサミーとセリーナが意気投合し、アリッサだけが取り残されているような空気が漂っていた。
(私の記憶が正しければ、セリーナ様のお誕生日は先月だったはずだし、サミー様の言葉をそのまま受け取るとしたら、婚約破棄した日こそがお誕生日なのでは? 今日は私のお誕生日なのに・・・・・・楽しいひとときの締めくくりに主役を奪われた気持ちがしてしまうわ)
楽しいはずの時間が心を悩ませるもやもやとした時間に変わり、アリッサは涙が出そうになるのを必死でこらえた。
(これがもっと仲の良かった友人だったら、違った気持ちになるのかしら? いいえ、本当に仲の良かった友人は、そもそもこのような非常識なことをする女性ではないわ)
アリッサは学園時代の友人たちの顔を、ひとりひとり思い出してみた。思い起こせば、学園時代のセリーナとは四人や六人のグループで行動していたけれど、二人きりで会話が弾んだことは一度もなかった。セリーナはその中の一員であり友好的に接していたけれど、心の内を打ち明け合えるような関係ではなく、お互いに本当に気兼ねなく話せる友人は別にいたのだった。
(セリーナ様が通りから私を見かけたとしても、わざわざレストランまで入ってくるほど親しい間柄だったとは思えない。だとしたら、何のためにわざわざサミー様の隣に座って、私に話しかけてきたの?)
アリッサは困惑するばかりだった。セリーナは今や、サミーにばかり視線を向け、会話を続けている。アリッサがケーキを食べ終え、最後の紅茶の一滴を飲み干しても、その話は終わる気配がなかった。
やっと解放され、サミーと馬車に乗り込もうとするその瞬間、再びセリーナが割り込もうとしてきた。
「セリーナ様たちはタウンハウスに戻るのですよね? 私も同じ方向ですわ。あぁ、良かったわ。ここから歩くには、かなりの時間がかかりますものね」
セリーナはアリッサの言葉にホロリと涙を流し、サミーの隣の席にストンと腰をおろした。アリッサは思わず眉をひそめた。
(なぜ、そこに座るの? セリーナ様がサミー様の横に座るのはおかしいでしょう? しかも、あんなに椅子をサミー様に近づけて。サミー様もセリーナ様に注意をしてくれればいいのに・・・・・・)
アリッサの胸に、もやもやとした感情が渦巻き始めた。自分の誕生日に他の女性に嫉妬する自分が惨めだ、と思いながらも、負の感情が抑えられない。
(サミー様がセリーナ様に笑いかけている・・・・・・なぜ、嬉しそうな眼差しをセリーナ様に向けるの? 今は私だけを見つめてほしいのに・・・・・・私はセリーナ様に比べて、ごく普通の容姿だわ。髪や瞳もゴドルフィン王国ではよく見かける茶色だし、顔立ちだって特に美人でも可愛くもない。もっと私が美しかったら、サミー様は私だけを見つめてくださるの?)
セリーナの髪は緩やかにカールされており、ピンクがかった金髪が人目を引く。愛らしい顔立ちに蜂蜜色の瞳は、どこか無邪気で無垢な印象を与えた。小柄な体型でありながら豊かなバストをもつセリーナは、愛らしさと少しばかりの挑発的な魅力を同時に持ち合わせていたのである。
しかし、アリッサは自分の容姿を過小評価しすぎていた。実際のところ、アリッサの顔立ちは整っており、清楚な美しさが備わっていた。
髪や瞳もこの国では一番多い茶色だったが、真っ直ぐで艶々と輝く髪は、光に当たるたび柔らかな光沢を放っていた。それは風に吹かれると、まるで絹糸のようにさらさらと揺れる。瞳には温かさと穏やかさを湛え、誰もが自然と引き寄せられる優しい光を宿していた。
その微笑みは見る者の心を和ませ、特に子供たちや動物たちがアリッサに懐くのは、その笑顔に込められた純粋な愛情のせいだった。しかし、充分魅力的な女性であるにもかかわらず、アリッサ自身はそのことにまったく気づいていなかった。ギャロウェイ伯爵家の人々がアリッサを、いまひとつ華やかさに欠ける存在として扱っていた弊害である。
「実はね、ライン様に浮気されましたのよ。ですから、こちらから婚約破棄したのですわ」
セリーナは高級レストランで誕生日を祝うアリッサとサミーに、およそふさわしくない話題を展開しようとするのだった。
(セリーナ様には遠慮という概念がないの? 私はサミー様と二人だけのお誕生日を楽しんでいるのに)
「ごめんなさいね、セリーナ様。そのお話は後日にしませんこと? 早くご自分の席にへお戻りにならないと、一緒に食事を楽しみに来ている方に失礼でしょう?」
「あぁ、確かにそうだね。連れの方を待たせてはいけないよ。料理だって、冷めてしまうだろう?」
サミーもセリーナに席へ戻ることを促したことで、アリッサはホッと胸をなでおろした。ところが、セリーナからの返答はアリッサが呆れてしまうものだった。
「あぁ、気にしないでくださいませ。連れはいないわ」
「え? まさか、ここに一人で食事をしに来たと言うの?」
「まさか、そんなわけないじゃない。通りからアリッサ様の姿が見えたから、嬉しくて来てしまったのよ。だから、心配しないで」
「食事をしにきたわけでもないのに、勝手に店内に入るなんてまずいわよ。早く、レストランから出て行ったほうがいいわ。ここは予約をした人しか入れないお店なのよ」
(信じられない。食事をしにきたわけでもないのに、外から知り合いを見かけただけで、予約しなければ食事ができないようなレストランに勝手に入り込むなんて・・・・・・)
不愉快に感じながらもアリッサがセリーナを諭していると、給仕が首を傾げながらやって来た。彼は上質な布地で仕立てられたシンプルでありながら、品のある制服を身にまとっていた。背筋をぴんと伸ばし静かに足を運びながら、客たちの周囲に気配を感じさせることなく、サービスを提供するのが彼らの仕事である。
「いかがされましたか? おや、こちらはお連れ様ですか? 確か、予約は二名様でしたよね? この後は紅茶とデザートのお祝いのケーキですが、お持ちしてよろしいでしょうか?」
給仕はやんわりと予約をしていないセリーナに出て行くよう促したのだが、暗に隠された意図を読み取る力はセリーナにはないようだった。
「まぁ、お祝いのケーキ? あぁ、そう言えば、今日はアリッサ様のお誕生日だったわね。私もお祝いしてあげるわ。すみません、飛び入り参加ってできないかしら? アリッサ様とはとても親しい友人なのよ。紅茶だけでも出してくださらない? 一緒にお祝いしてあげたいもの」
セリーナはフリルとレースがふんだんにあしらわれたドレスの裾を軽やかに揺らしながら、甘えるように給仕に微笑んだ。彼女のピンクがかった金髪にひけを取らないほど目を引く濃いピンクのドレスは、セリーナならではの華やかさと個性を放っていた。
(嘘でしょう? なんて、恥ずかしいことをおっしゃるの? 私なら、とても言えない。それに、悪いけれど、セリーナ様にお祝いしてもらいたいとは思っていないわ)
「セリーナ様、無理を言わないで。レストランに迷惑をかけてしまうわ。後日、ギャロウェイ伯爵家にご招待するわ。その時にゆっくりお話しを聞かせてちょうだい」
「えっ? 嫌よ。今、話したいのだもの。それに、ここにはサミー卿もいるし、ちょうどいいじゃない? 人数の多い方が話しやすいし、男性の意見も聞いてみたかったのよ。給仕さん、こんな時はサービスで紅茶くらい持ってくるのが常識だわ」
(とんでもない常識を持っているのね。こちらが恥ずかしくなるわ。なぜ、このタイミングでセリーナ様に見つかってしまったのかしら)
アリッサは自分の運の悪さを呪った。もう少し急いで食事を済ませレストランを出ていれば、通りを歩くセリーナからは見つからなかったはずだ。だが、会いたくない人ほど、最も会いたくない瞬間に出くわしてしまうものなのかもしれない。
「かしこまりました。紅茶を三人分お持ちしましょう。せっかくのお誕生日ですからね。当店のサービスとさせていただきます。どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」
セリーナにはなにを言っても無駄だと判断した給仕の男性が、銀のトレイに乗せられた紅茶とケーキを持ってきた。ティーカップを音も立てずに置くその動作は、まるで舞台の一部のように優雅だった。微笑を浮かべつつも決して過度に主張しないその立ち振る舞いは、空間に落ち着いた気品を漂わせる。
しかし、アリッサの心はどこかざわつき、その優雅なレストランの雰囲気を心から楽しむことができなかった。原因は、サミーが自分のケーキをセリーナに譲ったからだ。
(どうしてサミー様はセリーナ様にケーキをあげるの? これは、私たち二人で楽しむためのものでしょう?)
アリッサの頭の中は疑問でいっぱいだった。小ぶりなホールケーキを二等分したものが、アリッサとサミーの前に丁寧に置かれたというのに、サミーは自分のぶんを何のためらいもなくセリーナの前に移動させたのだ。
「まぁ、サミー様はお優しいのね。ありがとうございます。アリッサ様は、このような優しい男性が婚約者でいいわね。とても羨ましいわ。それに比べてライン様は・・・・・・」
ワイマーク伯爵の悪口を次々と並べ立てるセリーナに、サミーはうなずきながら聞き入っていた。
(そんなに熱心に聞いてあげる必要はあるの? 今日は私が主役なのよ。婚約者のサミー様に、私を一番に考えてほしいと思うのは我が儘なの?)
サミーはアリッサの表情の変化に気づくこともなく、セリーナに励ますような言葉をかける。
「それは酷い男だね。そんな男とは別れて正解だよ。ある意味、君は新しい道を進むことができるのだから、これを新しい人生への第一歩だと思って、前向きに考えたほうがいい」
「まぁ、素敵なことをおっしゃってくださいましたわ。だとしたら、今この瞬間が、私の新たなお誕生日かもしれませんわね。これから、私は生まれ変わりますわ!」
「そうだよ、その心意気だよ。お誕生日、おめでとう!」
「ありがとうございます! 嬉しい。うわぁー、このケーキはとても美味しいわ。私の新しい門出にぴったりです」
なぜかサミーとセリーナが意気投合し、アリッサだけが取り残されているような空気が漂っていた。
(私の記憶が正しければ、セリーナ様のお誕生日は先月だったはずだし、サミー様の言葉をそのまま受け取るとしたら、婚約破棄した日こそがお誕生日なのでは? 今日は私のお誕生日なのに・・・・・・楽しいひとときの締めくくりに主役を奪われた気持ちがしてしまうわ)
楽しいはずの時間が心を悩ませるもやもやとした時間に変わり、アリッサは涙が出そうになるのを必死でこらえた。
(これがもっと仲の良かった友人だったら、違った気持ちになるのかしら? いいえ、本当に仲の良かった友人は、そもそもこのような非常識なことをする女性ではないわ)
アリッサは学園時代の友人たちの顔を、ひとりひとり思い出してみた。思い起こせば、学園時代のセリーナとは四人や六人のグループで行動していたけれど、二人きりで会話が弾んだことは一度もなかった。セリーナはその中の一員であり友好的に接していたけれど、心の内を打ち明け合えるような関係ではなく、お互いに本当に気兼ねなく話せる友人は別にいたのだった。
(セリーナ様が通りから私を見かけたとしても、わざわざレストランまで入ってくるほど親しい間柄だったとは思えない。だとしたら、何のためにわざわざサミー様の隣に座って、私に話しかけてきたの?)
アリッサは困惑するばかりだった。セリーナは今や、サミーにばかり視線を向け、会話を続けている。アリッサがケーキを食べ終え、最後の紅茶の一滴を飲み干しても、その話は終わる気配がなかった。
やっと解放され、サミーと馬車に乗り込もうとするその瞬間、再びセリーナが割り込もうとしてきた。
「セリーナ様たちはタウンハウスに戻るのですよね? 私も同じ方向ですわ。あぁ、良かったわ。ここから歩くには、かなりの時間がかかりますものね」