君がいなけりゃ、意味がない
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「『人混みの中、屋台産のたこ焼きを食べながら観る花火』……その過去は、まさしく青春やった」
「輝かしいね」
「大人になった今。一番はさぁ……
『クーラーの効いた部屋で、ビール片手に観る花火』、やないの?」
「そう思うなら、下りればいいじゃん」
「……先輩は?」
「だって。見たでしょ?会場の、13階会議室」
「いっぱいイス置いてくれてましたねー」
「電気の消えた暗い部屋……
同じ窓に向かって、大勢の大人がズラズラとさぁ……
『整列されたイスに座って、大人しく観る花火』。
……果たしてそれは、風情なのかね?」
「歓声も上げにくそうではあったな。
『た……たまやぁ……』みたいな」
「うげ。絶対やだ。サムすぎる」
「やからって、なんもない屋上は暑すぎますよ。
ちょいちょい人もおるし」
「だから。
文句言うなら、神崎くんは会議室で観ればいいじゃん」
「ほんま、なんもわかってないっすね。先輩」
「なによ」
「こんな時に限ってさぁ。インドアの設定守ってよ」
「帰らないだけマシじゃない?」
「いーからさ、俺らの執務室いこ?
クーラー効いてるし……誰もいませんよ」
「あんな低層階からじゃ見えないよ。花火」
「強情。捻くれ者」
「そのフタコト酷評シリーズやめなぁ?
てかそれ、神崎くんだけには言われたくないよ」
「あ゛〜〜〜〜湿度〜〜〜〜〜〜」
「んもー、うるさい子だねぇ。
ん。そろそろ始まるんでない?」
「たまや〜〜〜」
「まだなにも上がってないよ。玉屋、準備中」
「……終わったら居酒屋行きません?」
「えー、ビアガーデンとかがいいな」
「屋上好きなん?」
「あ、上がった!」
「うおー。でけぇ」
「思ったよりすご。立地良いんだね、うちの会社。
去年も来ればよかったなぁ。もったいないや」
「来年もまた来ればええやん、一緒に」
「あはは」
「……ウケ狙ったんちゃうんやけど」
「おー!しだれ花火!一番好き」
「俺も、好き」
「……綺麗だなぁ」
「……ほんま、いつ言おうかなぁ」
「なんか全然聞こえないけど、話噛み合ってる?」
「ううん。ええの。どうせ噛み合わへんから。
……今は、まだ」
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