君がいなけりゃ、意味がない

6







「全身を包むトキメキ秋風ッ〜〜〜!
あー。この瞬間、一年で一番幸せかもぉ」


「わかる。無駄に歩きたくなったりするもん。
いつもは電車使う、会社と家の一駅間とか」


「でもさぁ、言ってもまだ暑いじゃん?特に日中。
いまだに真夏と同じ格好してんだけど。
去年の10月も、こんなんだっけ?」


「トレンチコートとか、いつ着たらええんでしょうね」


「ねー。さすがに月末には涼しくなってるかなぁ」


「……いやいや先輩。
こんな、会社の休憩室でも出来るような話してる場合ちゃうんですよ」


「いやー。だって。
ここらで一旦、気持ちを平常に戻さないとさ。
胸熱すぎて溶けちゃうよ」


「すっごいですよね、よさこい。
踊りだけでもキレッキレでカッコイイのに。
曲も、衣装も、口上も、全部含めて胸熱っすね」


「やっぱりさぁ、こう……熱中してる姿って本当にカッコイイねぇ。ちょっと泣きそう」


「え……ちょっと、俺も入れてもらおかな」


「やめときな。生半可な気持ちで触れると、ヤケドするぜ……」


「いや誰よアナタ。今日はじめて見たくせに」


「うははー、感化されやすいんだよね」


「あ、休憩入るんやって。今のうちに会場回ろ」


「うん。てかさ、うちの会社の人どこにいるんだろ。全然会わないね」


「そんなことより先輩、こっちに焼きそばありますよ」


「え、食べたい!お腹すいた。
あれ?並んでるの、谷山さんと佐藤さんじゃない?」


「やっぱ後にしよ、焼きそば。
あっちの牛串とかどう?」


「……何?会いたくないの?喧嘩してるとか?」


「いいえ。絶対邪魔されたくないという強い意志」


「邪魔 #とは」


「そんなハッシュタグつけても、返信0件です」


「現代における虚しさの象徴だね」


「そんなんで推し量るなんて、先輩もまだまだお子ちゃまですね」


「なんで憎まれ口は即レスなの。
で、邪魔ってどういう意味?」


「………………」


「なぜ黙る。都合悪くなったな?」


「いや。どう考えても先輩が悪い」


「なんでよ!」


「外出するの、月1回とか言うから」


「……話の繋がりはよくわかんないけど。
別に、そうと決めてるわけじゃないよ。
ちなみに、もちろん0回でも可」


「じゃあ……俺が遊ぼって言うたら、家出てくれます?イベント以外で」


「えー。そもそも、遊びたいか?私と」


「………………」


「ほら。なんか、都合悪そうじゃん」


「ほんま……何食べて生きてたら、そんな暴力的になれんねん」


「もー。何?さっきから、よくわかんないこと言って。
ご機嫌ナナメ?なぐさめてあげようか?」


「え。何してくれるんですか」


「んーーーー。
仕方ない……私の牛串、半分あげるかぁ。断腸の思いで」


「食べ物のことしか頭ないやん。
まあ、今回はそれで許してあげますよ」


「あれ……私、何を許されようとしてるんだろ……」





< 14 / 26 >

この作品をシェア

pagetop