君がいなけりゃ、意味がない

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「…………おまたせ、神崎くん」


「え、先輩。
もう脱いでもーたんですか…………」


「当たり前じゃん。
………………恥ずかしすぎるよ」


「もうちょっと……後でも良かったのに」


「なんでよ。
早ければ早いほど、いいに決まってるでしょ」


「だって…………」


「…………だって?」


「かわっ……………………」


「……………………か、皮?」


「……よう似合ってたのに。キッズ用サンタ衣装」


「もう二度と着ない」


「えー」


「そもそも私、あんなの着るキャラじゃないのにっ……」


「ほんまにねー。
本来着るはずやった実行委員のお子さん、大丈夫っすかね。風邪流行ってんもんなぁ」


「だからって、私が着る必要なかったよね。絶対」


「適材適所」


「誰の、ドコが、"適"だって??????」


「まあまあ、それは置いといて。
とりあえず、そこのベンチにでも座ろ」


「寒いじゃん。それこそ風邪引いちゃうよ」


「すぐやから大丈夫ですよ。
プレゼント渡すだけやし」


「ま、それもそうか。
あ、先座ってて。自動販売機行ってくる」


「ダメ。もう買ってある。
先輩の分のホットティー」


「い、いつの間に」


「先輩待ってる間」


「……ありがとう。あ、お金」


「いや、受け取るわけないやん。
そんなことより、はいコレ。
クリスマスプレゼント」


「わ。ありがとう……開けてみていい?」


「ワレモノやから気をつけて」


「えっ……と……ふ……フラスコ?
あ、理科の実験セット?」


「ちゃいますよ。"アロマディフューザー"です。
おうち大好きな先輩にぴったりでしょ」


「でふゅーざあ」


「あ、ちなみに。天然のエッセンシャルオイルやないと使えへんので、気ぃつけてください。
今回とりあえず無難に、ローズ選んどきました」


「ぅえっせんしゃる……
ちょっとオシャレ単語すぎるよ神崎くん」


「どこがですか。
カタカナやったらなんでもオシャレなん」


「とにかく、いい香りがするってこと?」


「そう。いい香りがするってことです」


「えへ。嬉し。ありがとっ!!
帰ったら早速使おう。楽しみすぎるなぁ」


「……そらよかった。ちゃんと説明書読んでね」


「ウン、ワカッタ。
わー、色んな香り集めたいなぁ……どこに売ってるの?なんとかオイルって」


「あー……今度一緒に行きます?説明ムズイし」


「行くー」


「……あの、先輩。
休みの日に外出るの、ちょっと抵抗無くなって来たんちゃうんすか」


「本当だねぇ。
今回もさぁ……コレ選ぶために、ちゃんと家から出たし」


「おわ。デカい袋っすね。なかなかの重さやし。
えっと……コレって……」


「もちろん、神崎くんへのプレゼントだよ」


「……………開けていい?」


「はじめに言っとくけど、文句禁止ね。
神崎くんみたいにセンスないんだから、私」


「……………………」


「あれ。開けないの」


「いやちょっと……念写に挑戦してみよかなって」


「コワ。いきなり怪談話やめてよ」


「あ……開けます」


「ドーゾ」


「えらい可愛い箱………………"低温調理器"?」


「そう!知ってる?
お鍋にさして放置するだけでねぇ、ローストビーフとか作れるんだって!」


「すご。初めて聞いた」


「いやぁ、結構悩んだんだけどね。
このパステルカラーのやつしか見つかんなくて、神崎くんには可愛いすぎるよなって……。
でも美味しい物は、一番元気になるからさぁ」


「ほんま、食に思考が偏ってますね」


「んー、やっぱダメだったかぁ」


「いや…………
先輩が考えて、選んでくれたんですよね?」


「そーだよ?」


「俺のために」


「うん」


「家を出て……」


「う、うん」


「…………俺のために?」


「しつこいなっ!そうだって言ってんじゃん」


「……………………めっちゃ嬉しい。
ありがとうございます」


「うーん。でもさぁ、今回のことで気付いたよ。
私……神崎くんの好きなものとか、何も知らないんだなって」


「俺の、好きなもの……」


「だからさ、また今度教えてよ。
今後の参考にするから」


「うん……。
あと少し、覚悟が決まったら言いますね」


「……いや、そんな仰々しい話じゃないんだけど」





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