君がいなけりゃ、意味がない

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「あー、お腹いっぱい。楽しかったー。
あれ。駅ってどっちだ?こっちか?」


「どこ行くん、先輩。こっちですよ」


「にしてもさぁ、今日のお店すっごく良かったよね」


「ね。お洒落やし、ご飯美味しかったし、プロジェクター貸してくれたし」


「そーいえば。
あの送別の映像って、誰が作ったんだろ?
BGMとか完璧で、ウルっときちゃったよ」


「俺」


「え!?すご」


「前から立候補しとったの。
……先輩のことも、含まれると思ってたから」


「えぇ…………そうなんだ、ありがとう……。
いやーほんと、私も送別される側のつもりだったのになぁ」


「……ほんまに嬉しい。先輩の4年目続投」


「でもやっぱりさぁ、そんな選抜あるなんて事前に言われてなかったよね?
もー、部長の説明漏れだよ。絶対」


「…………先輩」


「んー?」


「可愛いですね」


「えっ…………キャラ変?」


「変わってないよ。ずっと思っとったもん」


「……恥ずかしいから、口に出さないでいいんだけど」


「無理。止まらんから。
可愛い。可愛い。可愛い」


「あーあ……神崎くん、壊れちゃった」


「ひど」


「ねぇ。私、こっちから帰るね」


「え、なんで。駅そっちやないですよ。
もうすぐ着くのに」


「いや、もう一駅分歩こうかなって。
だから、また週明けね」


「……一人になりたい気分?」


「そういうわけじゃないけど」


「なら、俺も一緒に行っていい?」


「いーけど……大丈夫?
30分くらいかかると思うよ」


「余裕。行こ」


「なんかさ。
送別会楽しかったから、無性に歩きたくなったんだよね」


「あー、ちょっとわかるわぁ。
余韻で体が動いてまう感じね」


「……あ」


「え、何?忘れもん?」


「私さぁ、」


「う、うん」


「『神崎くんのこと好きか?』って聞かれたら……
正直、よくわかんないんだけど」


「え。え。突然の核心?やめてよ」


「でも……でもね。
神崎くんに『わかる』って言われるの、好きだよ」


「え……『わかる』?」


「ウン。神崎くんさ、
私が『こうだよね』みたいに言ったら、
『わかる』とか『良いね』とか……
共感したり、肯定で返してくれること多いでしょ」


「うーん。そうなんかな。
否定してまうことも、多いけど」


「あ。別に、否定でも良い」


「……どいうこと?」


「いや……私さ。
『変わってるね』って言われて、結局分かり合えなかったってことが、よくあるんだよね。
あ、別に深く悩んではナイよ」


「うん」


「そう言われると……諦めちゃうっていうか……。
もちろん、伝える努力をしない私が一番悪いんだけど……」


「ううん」


「だからね。……うまく言えないな。うーんとね、」


「あの、ゆっくりでええですよ」


「……えへ、ありがと。
だからね……共感でも否定でも、神崎くんが返してくれるとね。
『私の感覚、ちゃんと伝わってるんだな』って感じて、嬉しくなるの」


「……そう、なんや」


「あ。今、『それが何?』って思ったでしょ。
私も思う」


「思うんかい。
思ってへんよ、俺は」


「うはは。
ただ、なんとなく……
あの日の答え、今なら違うかなぁって」


「答えって?」


「"私にとっての神崎くん"。
大事な"後輩"っていうのは、変わってないんだけど……」


「…………うん」


「でも、それだけじゃなくて……。
"私の一番の理解者"って感じ、かも?……なんてね。
ごめんね、つまんない話をつらつらと」


「いや……いやいや。つまんなくないよ」


「……そう?」


「だってそれ…………結構……いや、
かなり嬉しいんですけど」


「えへへ。
やっぱり、"居てくれて良かった"って思うよ。心から」


「それでも……好きとはちゃうんですよね」


「そ……れは…………わかんないけど……まだ」


「……先輩」


「はい……」


「俺、待っててもいいの?」


「…………………………」


「…………………………」


「…………いつになるか、わかんないよ?」


「うん」


「もしかしたら……良い結果にはならないかも」


「うん。いいよ、それでも」


「………………待っててくれるの?」


「うん。いつまでも待ってる」





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